私たちがお色直ししているときに流れていたムービーが気になる、とさり気なくハナちゃんに伝えてみる。
「気になってくれた?良かったー!
DVDにして焼いてあるから、後で控室に持って行くね!
皆の自信作だよ!」
時刻は夕方16時を回っていた。
「皆様、そろそろ宴もたけなわ、でございますが、皆様のアンコールにお応えして、もう一度だけ演奏してくださるそうです!
新郎新婦が画面越しでしか聴けなかったのは寂しいですからね。
それでは、皆様、お食事は召し上がりながらで結構です、お楽しみください!
では、ピアノ奏者の一木 有海さん、お願いします!」
マイクを持った奈斗くんが、そう言って皆を着席させる。
それからは彼女の独壇場だった。
エルガーの愛の挨拶に始まり、ショパンのノクターン、ドビュッシーの月の光、パッヘルベルのカノン、バッハのG線上のアリア。
そして、それを弾き終えての彼女の一言。
「新郎新婦、そしてご両人の皆様。
本日は誠におめでとうございました。
お祝いの場には相応しくないかもしれないのですが、私の十八番、革命のエチュードで締めたいと思います。
それでは聴いてください。」
その台詞を発したときの柔らかな彼女の笑顔は一瞬で消えて、プロのピアニストの顔つきになる。
そして、右手と乖離しすぎている激しい左手の動き。
ピアノのペダルを踏む足の動きも洗練されていて、気品が漂っていた。
演奏を終えて、ピアノの椅子から立ち上がり、ピアノの傍で一例をすると、割れんばかりの拍手が会場を包んだ。
「ピアノ奏者の一木有海さん、素晴らしい演奏をありがとうございました!」
司会者の人から引き続きマイクを奪っていた奈斗くんが言う。
当の有海ちゃん本人は、奈斗くんに声を掛けられる前にあっという間にギャラリーに取り囲まれてしまった。
私も、蓮太郎も。
彼女に
お礼を言いたかったのに。
「後で言えばいいだろ。
チャンスはいくらでもあるんだ。
オレたちならな。」
ドレスとタキシードに付いたピンマイクから、ハナちゃんの声がした。
「有海はしばらく抜けられなさそう。
奈斗くんに後で彼女を救出してもらうとして、今日の主役のレンにメイちゃん!
そろそろ準備を!
特にメイちゃんはね!
ある意味で有海に犠牲になってもらってると思えば!
注目を浴びないのも今のうちだよ!」
そうだ。
もう、あと数時間後には、友佳ちゃんと一成くんが主役になるのだ。
その準備も、しなければ。
蓮太郎と控室に引っ込むと、見覚えのない箱が2つ置かれていた。
何だろう、これ。
『素晴らしい式と披露宴でございました。
2次会用に、ということで、参列できない明日香様がお二人のために、とオーダーメイドで誂えてくださいました。
こちらを着て、ぜひ2次会は参列くださいませ。
武田』
武田さんからのメモを読んで、そういえば、私と蓮太郎が入籍した後、屋敷に集まったときに採寸されたなぁ、と思い出す。
着替えようとすると、ノックの音がして、由紀ちゃんと菜々美ちゃんに腕を引っ張られた。
「ごめんね、旦那さん!
奥さん、借りていくね!」
蓮太郎は数回瞬きしたあと、にっこり微笑んで私たちを見送った。
連れて行かれたのは式場のトイレ。
個室に入る前に渡されたのは、アルミ袋に入ったスティック状のもの。
「ここでやるの?」
「もちろん。
挙式当日に、旦那さんにいい報告出来るって最高じゃない?」
「ほら、旦那さんが首を長くして、報告待ってるよ?
グズグズしない!
今なら人いないから連れてきたのに。
早くしないと人来ちゃうよ?」
……ものは試しだ。
やってみるだけ、やってみよう。
使うイメトレはしていた。
その通りにやるだけだ。
……。
「は?え?嘘……
こんなこと、って……」
ドレスの裾を汚さないように、そっと個室から出て、判定欄にくっきりと表示された線を見つめつつ、彼女たちを呼ぶ。
「これ、って……」
「やっぱり。
経験してるだけあって強いねぇ。
ビンゴだよ。」
「良かったねぇ。
さすが、狙い撃ちされただけあるね!
誰がどう見ても陽性じゃん。」
旦那さんに見せてきな、と背中を押す菜々美ちゃん。
その外で、声がした。
その声は、控室にいるはずの人だった。
「着替える前にバタつくだろうから、今のうちに、と思ってトイレ行ったら何やら騒いでるからさ。
会話、モロ聞こえだったぜ。
で?誰に何を見せる、って?」
クイ、と蓮太郎のタキシードの上着の裾を掴んで、耳を貸して、とジェスチャーをした。
「は?
マジで!?
ナイスタイミングだった、ってこと?
んで、その証拠が判定欄の赤線なわけか。
さすが、最高の奥さん。
最高の思い出のこの日に、極上のプレゼントをありがと。」
由紀ちゃんと菜々美ちゃんは、スティックを私の手から奪うと、何やら女子トイレに引っ込んだ。
一瞬だけ舌を絡めるキスをくれた蓮太郎。
「こういうのしか、できなくなっちゃうな。
ちゃんと我慢出来るかな。
まぁ、浮気とかそういう目的の店は論外だし、死んでも行かないけどさ。
気が向いたら相手してね?」
「あ、メイちゃんと蓮太郎くん、控室に戻って着替えてていいよー!
ピンマイクはプランSの関係者で呼ぶからね!」
由紀ちゃんの言葉に素直に頷いて、旦那と2人で控室に戻る。
「気になってくれた?良かったー!
DVDにして焼いてあるから、後で控室に持って行くね!
皆の自信作だよ!」
時刻は夕方16時を回っていた。
「皆様、そろそろ宴もたけなわ、でございますが、皆様のアンコールにお応えして、もう一度だけ演奏してくださるそうです!
新郎新婦が画面越しでしか聴けなかったのは寂しいですからね。
それでは、皆様、お食事は召し上がりながらで結構です、お楽しみください!
では、ピアノ奏者の一木 有海さん、お願いします!」
マイクを持った奈斗くんが、そう言って皆を着席させる。
それからは彼女の独壇場だった。
エルガーの愛の挨拶に始まり、ショパンのノクターン、ドビュッシーの月の光、パッヘルベルのカノン、バッハのG線上のアリア。
そして、それを弾き終えての彼女の一言。
「新郎新婦、そしてご両人の皆様。
本日は誠におめでとうございました。
お祝いの場には相応しくないかもしれないのですが、私の十八番、革命のエチュードで締めたいと思います。
それでは聴いてください。」
その台詞を発したときの柔らかな彼女の笑顔は一瞬で消えて、プロのピアニストの顔つきになる。
そして、右手と乖離しすぎている激しい左手の動き。
ピアノのペダルを踏む足の動きも洗練されていて、気品が漂っていた。
演奏を終えて、ピアノの椅子から立ち上がり、ピアノの傍で一例をすると、割れんばかりの拍手が会場を包んだ。
「ピアノ奏者の一木有海さん、素晴らしい演奏をありがとうございました!」
司会者の人から引き続きマイクを奪っていた奈斗くんが言う。
当の有海ちゃん本人は、奈斗くんに声を掛けられる前にあっという間にギャラリーに取り囲まれてしまった。
私も、蓮太郎も。
彼女に
お礼を言いたかったのに。
「後で言えばいいだろ。
チャンスはいくらでもあるんだ。
オレたちならな。」
ドレスとタキシードに付いたピンマイクから、ハナちゃんの声がした。
「有海はしばらく抜けられなさそう。
奈斗くんに後で彼女を救出してもらうとして、今日の主役のレンにメイちゃん!
そろそろ準備を!
特にメイちゃんはね!
ある意味で有海に犠牲になってもらってると思えば!
注目を浴びないのも今のうちだよ!」
そうだ。
もう、あと数時間後には、友佳ちゃんと一成くんが主役になるのだ。
その準備も、しなければ。
蓮太郎と控室に引っ込むと、見覚えのない箱が2つ置かれていた。
何だろう、これ。
『素晴らしい式と披露宴でございました。
2次会用に、ということで、参列できない明日香様がお二人のために、とオーダーメイドで誂えてくださいました。
こちらを着て、ぜひ2次会は参列くださいませ。
武田』
武田さんからのメモを読んで、そういえば、私と蓮太郎が入籍した後、屋敷に集まったときに採寸されたなぁ、と思い出す。
着替えようとすると、ノックの音がして、由紀ちゃんと菜々美ちゃんに腕を引っ張られた。
「ごめんね、旦那さん!
奥さん、借りていくね!」
蓮太郎は数回瞬きしたあと、にっこり微笑んで私たちを見送った。
連れて行かれたのは式場のトイレ。
個室に入る前に渡されたのは、アルミ袋に入ったスティック状のもの。
「ここでやるの?」
「もちろん。
挙式当日に、旦那さんにいい報告出来るって最高じゃない?」
「ほら、旦那さんが首を長くして、報告待ってるよ?
グズグズしない!
今なら人いないから連れてきたのに。
早くしないと人来ちゃうよ?」
……ものは試しだ。
やってみるだけ、やってみよう。
使うイメトレはしていた。
その通りにやるだけだ。
……。
「は?え?嘘……
こんなこと、って……」
ドレスの裾を汚さないように、そっと個室から出て、判定欄にくっきりと表示された線を見つめつつ、彼女たちを呼ぶ。
「これ、って……」
「やっぱり。
経験してるだけあって強いねぇ。
ビンゴだよ。」
「良かったねぇ。
さすが、狙い撃ちされただけあるね!
誰がどう見ても陽性じゃん。」
旦那さんに見せてきな、と背中を押す菜々美ちゃん。
その外で、声がした。
その声は、控室にいるはずの人だった。
「着替える前にバタつくだろうから、今のうちに、と思ってトイレ行ったら何やら騒いでるからさ。
会話、モロ聞こえだったぜ。
で?誰に何を見せる、って?」
クイ、と蓮太郎のタキシードの上着の裾を掴んで、耳を貸して、とジェスチャーをした。
「は?
マジで!?
ナイスタイミングだった、ってこと?
んで、その証拠が判定欄の赤線なわけか。
さすが、最高の奥さん。
最高の思い出のこの日に、極上のプレゼントをありがと。」
由紀ちゃんと菜々美ちゃんは、スティックを私の手から奪うと、何やら女子トイレに引っ込んだ。
一瞬だけ舌を絡めるキスをくれた蓮太郎。
「こういうのしか、できなくなっちゃうな。
ちゃんと我慢出来るかな。
まぁ、浮気とかそういう目的の店は論外だし、死んでも行かないけどさ。
気が向いたら相手してね?」
「あ、メイちゃんと蓮太郎くん、控室に戻って着替えてていいよー!
ピンマイクはプランSの関係者で呼ぶからね!」
由紀ちゃんの言葉に素直に頷いて、旦那と2人で控室に戻る。



