ボーダー

部屋に戻ると、有海ちゃんが着ていたレースワンピースを脱いで、丁寧に畳んで紙袋に入れているところだった。

「これ、ちょうどサイズが合わなくなってきたところだったらしくて。
私があまりにピッタリ似合っていたから、あげるって言われたんだ!」

彼女はルンルンで、ルームウェアに着替えている。

「パーソナルカラーともバッチリ合ってたからね、ギャラリーも惚れ惚れしたでしょうよ。

あの場に奈斗くんがいたら、気が気じゃなかったかもね。
奈斗くん、有海に対してだけ独占欲強いからなぁ。
帰ったら覚悟しなきゃかも。
激しくされるんじゃない?」

「もう、ナナったら!

そういうナナも、沖縄から帰った日の夜は激しく愛されたくせに。
お風呂入ったときに太もも辺りにシルシがくっきりついてたよ?」

有海ちゃんに言われて、バレてたか、と舌を出す菜々美ちゃん。

「そろそろ眠い。
ごめん、ピアノ弾いたこともあって、ミルクティーと甘いケーキだけじゃちょっと疲れ取れないな。
ごめんね、私だけギブアップ……」

「いいよいいよ、寝な?
疲れたでしょ。」

「発表会とかコンクール以外で、あまり人前で弾くことないんだもんね、緊張するよね……」

「たまに、賢正学園に来て、ピアノ弾いてくれるの、有海ちゃん。
今日弾いてくれたアラベスク、ノクターン辺りを弾いて、子守唄代わりにして小学生の子たちはぐっすりなのよ。
昨日も弾いてくれてたし。」

友佳ちゃんがそう言うと、由紀ちゃんも同意した。

「有海が施設来ると嬉しそうだしね。
皆、有海のピアノを楽しみにしてる感じ。」

由紀ちゃんが何かを友佳ちゃんに話そうとしてその動きを止めた。

彼女はすやすやと寝息を立てていた。

ベッドに寝かせてやると、布団を掛けて微笑んだ。

「この子のウェディングは、いつになることやら。」

……ふと、由紀ちゃんの言葉でサプライズを思いつく。

寝入っている有海ちゃんは仕方ない、彼女も幹事だが、後で話そう。
その他の面々を、寝入ってしまった友佳ちゃんから遠いリビングに集めて、小声で話す。

「私たちの挙式が終わったら、2次会ついでにやりたいな、と思ってるの。
お腹大きくなってくるとドレス着れないし。
産まれてから、となるとそれも大変でしょ?」

私の言葉で、頭のいい親友たちは何を言わんとしているか分かったようだ。

「彼女がアルバイトしてる美容院のオーナーも呼ばなきゃね!
スピーチ頼んでもいいかも。」

「あとは、友佳の両親と、一成くんの両親、あとは賢正学園の澪さんね。
その辺りの手配、幹事の私たちも協力する!」

愛実ちゃんと菜々美ちゃんがそう言ってくれて嬉しい限りだ。

「その話、ミツに伝えておくね!
何しろ、こういうときの橋渡し役だもの。

どう友佳と一成くんにバレないように動くか、だね。
あの二人、勘がニブいように見えるけど意外に察するのは上手いから注意かも。」

ハナちゃんにも感謝だ。

方向性は、あと1週間で詰めなければならない。

亜子さんにも相談しなければ。

「メイちゃんは自分の挙式に集中しなきゃね!

一生に一度の晴れ舞台だよ?
発案がメイちゃん、ってだけで友佳も嬉しいと思うし。

そうと決まったら、もう寝よう?
名残惜しいけど。

新婦さんの体調管理も、ブライズメイドの大事な仕事だと思ってるし。

おやすみ、メイちゃん。」

ハナちゃんは私に声を掛けて、私がゆっくり眠れるように敷いてあった布団で眠りについた。

ベッドに入って、私も眠った。

朝になると、美味しそうな香りで目が覚めた。

サンドイッチやスクランブルエッグ、スープやフルーツがが並んでいる。

レストランのキッチン借りちゃった、と舌を出したのは麻紀ちゃんだ。

「おはよ、メイちゃん!
食べな?麻紀お手製の朝ごはん。」

寝起きの目を擦りながら、手を合わせて朝ごはんを口に運んだ。

濃くもなく薄くもない、丁度いい味付けだ。

もう、いい奥さんになる資格あるんだから、麻紀ちゃんからプロポーズすればいいのに、という言葉が喉まで出かかった。

しかし、本人たちにも事情がある。
そこまで他人が首を突っ込むのはよくない。

「美味しかったー!」

朝ご飯を食べ終えると、ルームウェアのまま、各々荷物を持って車に乗せられた。
車は宝月邸に向かった。