ボーダー

レンを引っ張って、一成と友佳ちゃんの部屋に向かった。

「友佳、可能性はあるんだよな?
何で相談してくれなかった?」

「だって、怖かったもん!
籍入れる前に妊娠、なんて。

学校にバレるのも、一成の仕事先に迷惑かかるのも、せっかく仕事覚えてきたのに穴あけるのも、嫌だったの!」

感情的にケンカをしている場合か。
その空気を打ち破るように、ノックもせずに部屋に入る。

「そんな言い方ないよ!
まだ確定してないにしろ、友佳。
貴女のお腹には貴女の子供がいるかもしれないのよ?

そんな言い方は、子供が可哀想よ!」

「大体、覚悟出来てたのかよ。
そろそろ籍入れるから着けないでいいか、みたいな考えがどちらかにあったんじゃねぇの?

そりゃ、妊娠させられた側は困るよな。
キャリアに穴があくのは奥さんのほうだ。
否が応でもな。」

「友佳、あなたもよ?
インキャンのとき、軽々しくデキ婚でもいい、なんて言ってたけどさ。

本当に、その時覚悟は出来てたの?

仕事と両立、私たちより年上の大卒の子でも今は難しいのに。

そこに答えを出せないままじゃ、人の親になる資格、ないんじゃない?

私たちみたいに、高校卒業と同時に入籍、すぐ妊娠ってことを好意的に受け止めてくれる人ばかりじゃないのよ。

軽率すぎる、って非難する人だっているわ、きっとね。
その言葉の棘に、視線に友佳は耐えられる?」

麻紀ちゃんにほとんど言われちまったな。
オレが言いたいこと。

「麻紀ちゃんの言う通りだ。
……一成、うなだれてる場合か?
自分の奥さんに何をしたか、考えるんだな。

頭を冷やすためにも、オレたちと一緒にいたほうがいいだろう。
レンの部屋に行くぞ。」

一成を引っ張って、レンの部屋に行く。

「うん、そのほうがいいかも。
ハナがそろそろ、買い物から帰ってくる頃だと思う。

貴方の婚約者さんは、感情に訴えかけるように諭すほうが畑だから、その役割もお願いしてるから。」

一成の奥さんの方は、麻紀ちゃんと、オレの婚約者に託すことにする。

レンの部屋に着くと、男性陣が輪になって、その視線の先には、メイちゃんがいた。

「揃ったわね、じゃあ、説明するわよ。
この沖縄旅行日から、彼女は眠そうにしていたわ。
さらに、食欲も旺盛じゃなかったみたいだし。

決め手は、私がホテルに行く前の、武田さんが運転してくれた車中での会話ね。

身体が資本よ、特に女性はね。
籍を入れれば当然、夜もいろいろあるでしょうから。
気付かない間に妊娠、なんてこともあるしね。
ハナちゃんの言う通り、寝ているといい、って私は言ったの。

そうしたら彼女は、肩をビクっとさせて目を見開いたのよ。

妊娠って単語に反応したのね、おそらく。

勘付いてはいたんでしょうけど、向き合うのが怖かった、ってところかしらね。

大浴場では無意識的に、身体に負担がかからないように、半身浴してたわ、彼女。
きっと本能的に分かってたのね、新しい命が宿ったことを。
身篭った瞬間から女性は母になる、っていうから。

それを分からせるために、妊娠検査薬を買いに行かせる役を、貴方の婚約者に頼んじゃったけどごめんなさいね?」

なるほど、外に出たのはそれが理由か。
買いに行って諭すまで、旦那をオレたちのところにいさせた理由も、これでハッキリした。

検査薬云々、の生々しい話は男性は避けたがるからな。

「肝心なのはお前と、お前の妻がどうしたいかだ。
それをよく考えて、2人で話し合うんだな。」

コンコン、とノックの音がした。
麻紀ちゃんとハナが顔を出した。
ドアを開けて迎えたのは、レンの奥さんだ。

「男性陣は皆、面白いくらいに口をポカンとさせながら話を聞いていたわ。
その筆頭が彼女の旦那ね。

そりゃそうよね。

妊娠初期症状なんて、よほど身体に注意してないとピンとこないもの。

これから本人たちがどうするかは、本人たちが決めること。
私たち外野が口を出すと逆にこじれるから、何もしないのが賢明ね。

……各自解散でいいわよ。」