ボーダー

いつか婚約者にサプライズで貰ったサッカー素材のパジャマを着て、真と一緒に脱衣場から出る。

レンからメールが届いた。

『友佳ちゃんと一成は、部屋にいさせてる。
あと30秒くらいでそっちに着く。

風呂上がりで水分補給したいだろ、ラウンジで頼むか、自販機がある。
自販機2つあるから選び放題だぜ。』

連絡手段がテレパシーからメールになった、ということが、彼の身体にも魔力はないということを如実に物語っていた。

これで、大事な妻に、自分の遺伝子を継いだ子供を何の不安もなく身篭らせられる、か。

良かったな、と思う反面、正直羨ましい。

そんなことを思っていると、真が話しかけてくる。

「いつか、とは思うんでしょ?
一成とか蓮太郎が妊娠させる云々の話をしてたとき、分かりやすいくらい眉間にシワ寄ってたから。」

「まぁな。
仮に、何年か後に籍を入れられたとして、いつそれができるかだな。
司法試験に受かっても、すぐに弁護士や検察官になれるわけじゃない。
司法修習生、という立場となり、研修を受けなくてはならないのだ。
その間はアルバイトも禁止だ。

検察官は異動もあるから、いつでも一緒にいられるわけじゃないし。」

「優くんも大変だねぇ。」

そんな会話をしながらラウンジで頼んだウーロン茶を、2人してちびちびと飲む。

ラウンジにいると、後ろから肩を叩かれた。
後ろにいたのはレンだ。

真も、彼の彼女の麻紀ちゃんに肩を叩かれている。

「おお、レンか。」

「もうすぐ、俺の奥さんと、お前の婚約者も来るはずだぞ、ミツ。」

「ごめん!お待たせ!」

「……遅くなったわね、
待たせたかしら、蓮太郎。」

脱衣場から出てきたのは、まだ髪が乾ききっていないオレの婚約者と、サテンパジャマを着たレンの奥さんだ。

「友佳ちゃんと一成は、部屋で休ませてる。
軽い貧血だろう、って。

風呂上がりに水飲まないと、脱水症状になる。

ハナとメイの2人、そこのラウンジの自販機で何か買うか、頼むといい。
部屋に入ると、水も多分補充されてるはずだけどな。
そこは抜かりないぜ。
宝月グループ管理のホテルだからな。」

レンの言葉に頷いた彼女たちは、まっすぐ自販機に向かい、それぞれペットボトルを手にして戻ってきた。

そこで、真の彼女が口を開く。

「ねぇ、真たちで、うまく一成くんだけを、友佳から離してほしいの。

15分位で済むと思うんだ。」

「何か思い当たること、あるんだ?
麻紀。」

真くんの問いかけに、強く頷く麻紀ちゃん。

さすが、女性陣は気付いているな。

「すぐ戻る。
メイちゃんなら余裕だよね、状況説明。
自分も、近々そうなる覚悟はあるわけだし?
……よろしく!」

ハナは部屋に戻って財布取って、少し買い物に出てくる、とオレに告げた後、ラウンジ近くの下りのエレベーターの方面に向かった。

「話は、私がするけど、こんなところじゃなんだから、私たちの部屋に呼ぶわ。
彼女の旦那を引っ張る役に、ハナちゃんの旦那さんを指名するから、頼むわね?

……こういうのは、感情に訴えかけるより、淡々と論理的に諭したほうが言うことを聞くの。

どうせ彼女の旦那は現実と向き合うことから逃げてるだけだろうし。
目を覚まさせるには、切れ味鋭い剣みたいな言葉で論破するのが効くわ。

案内役として、蓮太郎もお願いするわ。
御劔くんの案内をしてあげて。

さぁ、他の皆は私たちの部屋に行きましょう。
ついてきて。」

おそらくオレの婚約者のあの言葉で、自分が何をすべきか理解しているからこそ、自分の果たすべき役割をきちんと、こなせるんだな。

彼女のこういうところに、レンは惚れたんだろう。

「麻紀、蓮太郎と優くんを、一成の部屋まで案内してやってくれ。
できるね?」

「私に着いてきて、2人とも。」

「真、略奪するなよ?
オレの大事な妻だ。」

「僕は人妻に手なんて出さないよ?
どんなに美人で可愛くても、麻紀以外には僕の息子、反応しないし。」

そんなに、自分の奥さんと自分の親友が2人きりになるのが嫌か。

向こうも彼女持ちだ、心配ないだろうに。

「ホラ、早く行くぞ。」