ボーダー

エレベーターに乗って夕食会場に行く。
チラ、と見えたミツの横顔が赤い気がした。

あれ?
レンとかミツも、観光してたときのラフな格好じゃなくて、ワイシャツに黒のベスト、ジャケットスタイルになっている。
黒のジャケットは同じだけれど、ワイシャツがストライプだったりギンガムチェックだったりしている。

ミツはギンガムチェックだ。
あまり、ミツが柄物の服を着るのを見ないから新鮮に映る。
惚れ直しそうだ。

「女性陣はワンピースなのにオレらがラフすぎると釣り合いが取れない、だってさ。」

「オレら、スーツケースにそんなもの入れてないからさ。

宝月夫婦が、こっちにたまたま執事の研修に来てた人たちのクローゼットやら手持ち服から拝借してきたらしい。」

武田さんが、ミツに何やら耳打ちして、彼がお礼を言われていた。

夕食はバイキングだ。
シャンデリアと丸テーブルが豪華な夕食会場、というのもあるが、いい服を着ているからか、自然に所作も美しくなる。

一成くんや真くん、ミツは、人の服を借りてるから、汚せないし気を遣ってあまり食べなさそうだなぁ。
真くんとレン、ミツはマナーや所作に慣れていて無駄がない。
私も彼らを観察しながら、おっかなびっくり食べていく。

和洋中バランス良く、と普通の人ならいくが、中華料理が苦手な私は和と洋のものしか取っていない。

それと早々とデザート。
こういうのは、先に確保しないとね!

私の側には、4皿のお皿が積み上がっている。

和食1皿に、洋食2皿、デザート1皿だ。

2皿でギブアップしたのは以外にも友佳で、3皿で白旗をあげたのはメイちゃんと麻紀だ。

「どうしたの友佳。
バスケ部だった頃の友佳なら5皿は食べてたはずじゃない。」

「うん、何か最近食欲なくて。
甘いものとか辛いものより、無性に酸味のあるものを身体が欲する感じがするんだよね。」

「うーん、続くようなら、落ち着いたら病院行きの方がいいと思う。
私のサポート回ってくれて感謝してるけど、無理しすぎないでね!」

私が言うと、友佳は力なく笑った。

食べ終わると、先に部屋に行っているように、ミツに言われる。

一緒に部屋戻りたかったんだけどな。

スイートルームみたいな広い部屋なんだよね。
それでいてオーシャンビュー、って恵まれすぎている。

部屋に入ると、花びらで矢印が作られている。

この方向はベッドだ。

大人しくベッドに向かうと、ベッドシーツの真ん中に同じく花びらで囲まれたハートマーク。
その中心に何やら小箱がある。

何だろう、これ。

何気なく小箱を開けるのと、私がビックリして口をあんぐりさせるのは同時だった。

いつか、ミツと一緒にショッピングモールで見た、あの指輪が小箱の中に収まっていたから。

え、ちょっと、なにこれ。
聞いてない。

部屋に入ってきたミツの方を見ると、彼にベッドに座るように言われる。

「……ハナ。
華恵。

大学決まってから、言いたいことあったの。
今聞いてくれる?

……オレと結婚してください。

ハナが、弁護士っていう夢叶えたときに、籍入れたい、って考えてる。
何ならその前に結婚前提に一緒の家に住もう。

オレは一生かけて、ずっと片想いして、恋人になれた人を、奥さんとして幸せにしていきたいんだ。

オレでよかったら、お願いします。」

「……ミツ。
ううん、優作。
私で良ければ、お願いします。

私の隣はミツじゃなきゃ、多分ダメなんだと思う。
不束者ですが、よろしくお願いします。」

こんなところで、こんな素敵なプロポーズだなんて、予想してなかった。

ぺこり、と頭を下げた。
瞳から溢れた一筋の涙を見せないようにするためもあるけど。

「大事な婚約者を泣かせる趣味はないんだけどな、オレ。」

「仕方ないでしょ、嬉しいんだもん!」

高校のインキャン。
あの後、初めて2人で迎えたクリスマス。
あの日に貰った指輪を、そっと外した。

目を瞑るよう言われて、その通りにする。

新しい、慣れないプラチナの指輪のひんやりとした感触を感じた。

「うん、目、開けていいよ?
やっぱり似合う。
さすがオレの婚約者。」

長い間ペアリングが嵌められていた左手薬指指には、センターにダイヤモンドが輝く指輪が嵌っていた。
指の形を細く見せてくれるカーブが印象的なそれは、サイズピッタリだ。

「……絶対、幸せにするから。
愛してる。」

どちらからともなく始まるキスは、徐々に深くなる。

「はい、お二人さん、そこまでー!」

「続きはお風呂に入ってからにしたら?」

宝月夫婦に、黒沢夫婦。
いずれ夫婦になるだろう、麻紀と真くんまで。ドアの隙間から、一部始終を見られていたらしい。
この2人のことだ。
盗音機とやらで録画もしてあるだろう。

まったくもう。

「お前らなー!
人の一世一代のプロポーズを覗くなよな……」

「とにかくホラ、用意して風呂入ろうぜ!」

「露天風呂、楽しみだし!
ハナも行こうよー!」

友佳と麻紀に背中を押されるようにして、ルームウェアと下着を持つと、大浴場に向かった。

グイ、とミツに腕を引かれる。

「……夜、楽しみにしてる。
寝かせる気ないし、疲れたって言っても止めてやらないから、そのつもりでな?」

もう、ミツのバカ。