ボーダー

空港から出ると、南国特有のフルーツの匂いが新鮮な空気と共に入ってきてもおかしくない感覚になった。
ホテルまで車で行くという。

車で約1時間の距離だそうだ。

運転は、先に現地にいた武田さんだ。

俺も運転できるのに、と不満げに呟いたのは一成くんだ。

「旅行先で、万が一怪我があっては目も当てられません。
運転は私が。」

武田さんを私から離れたところに引っ張って、何やらミツと宝月夫婦が話し合いをしている。

「早く行こうよ、時間もったいない!」

「はいはい、ワガママな恋人の頼みなら、行きましょう。」

ホテルに先に荷物を預けて、チェックインをする。

アクビを噛み殺して、眠そうにしている友佳。

「友佳、寝不足?」

「うん、そうかも。
最近、寝付きは悪いし疲れやすいし。
ヤバい病気とかじゃないといいんだけど。」

「寝てていいよー?」

「身体が資本よ、特に女性はね。
籍を入れれば当然、夜もいろいろあるでしょうから。
気付かない間に妊娠、なんてこともあるしね。
ハナちゃんの言う通り、寝ているといいわ。」

それは自分もじゃないのか、というツッコミは誰にもされていなかった。

肩をビクッとさせて目を見開いた彼女の様子をジッと見つめていたのはメイちゃんだった。

省スペース化のため、蓮太郎とミツ、真と和成くんは別の車で後から追うという。

ホテルのロビーで、後から来る組を待つ。
宝月邸の屋敷にも似た、吹き抜けのロビーになっている。

ロビーに足を踏み入れた瞬間、駐車場に車が停まる。

「……ちょっと遅かったか。
左ハンドル、ちょっと久しぶりだったけど、何とかなったな。

可愛い妻に欲情しないように、別の車にさせた甲斐はあった、ってところか。」

「割と安全運転だったんじゃないか?
こういうときは特に急いで事故りそうな筆頭なのに。」

もしかしなくても、レンが運転したの?
レンったら。
自分も挙式控えてるのに。

宝月夫婦と黒沢夫婦の後ろについていき、チェックインを済ませる。

部屋に入ると、窓からは都会ではまず見られない、綺麗な海が見えた。

「こういうの、女性陣は好きだろ。
とりわけ、オレの幼なじみは。」

レンの言葉に、首が取れそうになるくらい縦に振る。

アメニティーもいいものが揃えてあるし、ベッドもふかふかだ。

「……集合は夜19時。
19時30分に夕食だからな!
いいな、ここのホテルのロビーだぞ。
それまで、このホテルでゆったりするもよし、各々観光するもよし。
本当の自由時間だ!」

「何かの高校の修学旅行で出来なかったことを今やってる感じがする。
楽しいね、こういうの!

……首里城行きたいな!」

「じゃあ行くか。
あ、カードキー落としたり失くしたりしないようにな。」

「分かってますー。
もう、心配性な恋人さん。」

バッグインバッグに入っているパスケースに潜ませてある。
しかもパスケースをしっかりとチャック付きの袋に入れて。
旅行先で何かを盗まれたり、スリに遭ったらそれこそ楽しい思い出が一瞬で残念な思い出に変わってしまう。

それは避けたかった。

私も大概、心配性なのだろう。

片方の手は沖縄のガイドブックで塞がっているが、もう片方の手はしっかり彼によって握られている。
都会では気兼ねして、一緒に歩いていても手を繋げないこともある。
しかし、旅行先だと躊躇なくできてしまう。

特別な場所だからかな?

ホテルの最寄り駅から、モノレールに乗るようだ。
都会でも、モノレールは多くない。
何だか新鮮だ。

モノレールを降りて、15分ほど歩く。

何とか地図を見ながら辿り着くと、朱い門が目の前にそびえ立っていた。

「やっと着いたー!」

ミツはパシャ、とカメラで首里城全体を撮る。そのまま、そのカメラを近くの人に渡した。

「すみません、写真お願いできますか?」

テキパキと写真撮影を頼んで、あっという間にシャッターが切られた。
上手く笑えていたか、記憶にない。

「お手数おかけしました。
ありがとうございました!」

私もカメラを構えてくれたオバちゃんに会釈だけして、首里城を見学した。

「何かいいよな、こういうの。
婚前旅行感が出てて。

まぁ、レンたち夫婦と黒沢夫婦にとっては、これが新婚旅行になるんだろうが。」

もう、こんなところでこんなロマンチックな台詞を、サラッと言わないでほしい。

せっかくの首里城の朱さより、私の顔の赤さのほうが上なんじゃないか、って思ってしまう。

反則だよ、ミツったら。

お昼は、近くのお店でゆし豆腐を食べた。

麻紀や黒沢夫婦に自慢をするため、忘れずに写真も撮った。

首里城公園をぶらついて、腹ごなしをした後にホテルに戻った。

ホテルに戻ると、ロビーにはメイちゃんとレンがいた。

メイちゃんは、スカイブルーのワンピースだが胸元と袖がレースになっている。

「時間もあるし、ちょっといい夕食会場みたいだから、ワンピースとか着ればいいのに。
部屋戻って着て来る?」

ワンピースは持っているけど、春っぽくないし何だか照れる。

皆、女性陣は着替えているから、と言われて部屋に行く。
ピンクベージュのブラウスと白いレーススカートがドッキングしたようなワンピースを着て、ドット柄のタイツを履く。
パンプスは白い5cmヒールのものだ。
執事たちの研修の際に使用するべく、南 亜子さんが用意したものだそうだ。

……これで、いいかな?