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「待ってたわ。
賢正学園の園長、和田 澪《わだ みお》といいます。
よろしくね。」

学園に入ると、和田さんと名乗った50代くらいの女性が出てきた。

「彼女かしら?
お世話になりたい、って子は。
武田さんから事情は聞いています。
学園の中、案内するわ。」

そう、和田さんと友佳が背を向けた瞬間。
私たちの横に停まった車から、あなた!という悲痛な叫び声とともに、ペティナイフを持った男性が飛び出してきた。

『お願い!』

万が一のことがあったとき、私が近くにあるカエデの木の枝を、男に向かって伸ばすよう、あらかじめお願いしていた。

ペティナイフは伸びてきた木の枝に払われて床に落ちる。
その様子に動揺していたところに、男に技をかけて、男を地面に押さえつけた。

その隙に、すでに呼ばれていたであろう警官2人が男を取り押さえた。

友佳は、後ろを振り向いて自分の背後で起きたことに動揺を隠しきれない。

「私、お母さん?
お父さんまでなんでここに!」

「おそらく盗聴ね。
貴女がよく使うカバンに、盗聴器仕掛けてたのよ、貴方の父親はね。
だから、学校で彼氏さんと仲良くしてるのも筒抜けだったと思うわ。

取り調べから解放されたあと、私のカウンセリングを、カウンセリング先進国のアメリカで受けてもらいます。
仕事はクビでしょうから。」

そこで言葉を切って、私たちと友佳に向き直った。

「いつも、由紀がお世話になっているわね、由紀の母、珠美 由理です。
カウンセラーがいたほうが話しやすいこともあるでしょう。
同行したくて来たらこんなことに。」

賢正学園の向かいにある広い公園から現れたのは、由紀の母親だった。

「私の夫がご迷惑をおかけしました……。
娘のすることに対して干渉して、暴力まで振るって。
このままだと娘がダメになる。

保育園から一緒の黒沢くんのお家に行って事情を話して、友佳を匿ってもらおうかとも考えたけど、それは迷惑になるし。

どうしようか考えたところに、友佳からこの養護施設の話が。

私は友佳の味方でいようと決めましたので、反対どころかむしろ賛成なんです。
その話を聞いた瞬間、俺から逃げるのか!って烈火のごとく夫がキレて。

気が付いたら私が運転する車に乗って、私までペティナイフで脅されて。

夫を、お願いします……。」

分かりました。
由理さんの後ろには、要請を受けてきてくれたであろう、村西さんと遠藤さんもいた。

「おお、蓮太郎の幼なじみのカップルさん。
蓮太郎と由紀ちゃんから話は聞いたよ。
今回は君たちのおかげだ、ありがとう。」

皆で、パトカーに乗せられていく友佳の父親を見送る。

さて、ひと仕事してくるわ、と言った由理さんは、澪さんと友佳についていく。

残った私とミツ、友佳ちゃんのお母さんは、学園のダイニングに所在なさげに座ることになった。

90分ほど経った頃、最近見ることがなかった友佳の晴れ晴れとした顔を見ることができた。

「ここにお世話になることに決めたの!
一成とは、学校以外だと会える頻度今より減っちゃうけど。
18歳になったら結婚するし、それまでの辛抱だよね!
私は、11月で18歳なんだけど、一成が12月21日にならないとだからさ。

バイトは高校生ならOKみたいだし、事情を知ってる美容室のオーナーにも話してみる!」

今日の15時くらいには学園が賑やかになるというので、それまでいることにした。

お腹空かないかしら?と言った友佳の母、佳枝《よしえ》さんと澪さんが簡単な手料理を作ってくれるという。
私も手伝って、野菜炒めが完成した。
ご飯は、パックご飯が残っていたのでそれになった。
作るのは2人だが、配膳は私の担当だ。

私の頭を撫でてくれたミツは、後でご褒美な、と言ってくれる。
寝られないの、明日の学校に響くんだけどな。

15時を回った頃。
澪さんがやんちゃな子たちが帰ってきたわね、という。
帰ってきたのは、小学生の子たちらしい。

「わぁ、初めまして!」

「お姉ちゃんたち、新入りさん?」

「私たちは違うんだ、新入りは私の横にいる、背が高いお姉ちゃんよ?」

私は、鎖骨が見える黒いニットにショートパンツにニーハイを履いた友佳を指差す。

「矢浪 友佳。
よろしくね!」

「ババ抜き、うまくなりたい子はこのお兄ちゃんと私が強いから、コツ教えようか?
あとは、神経衰弱も強いよ!」

上手く私たちも輪の中に入って、この養護施設のことはよく知ってる、勇馬くんと良太郎くんの帰りを待った。

そして、2人が帰ってきたのとほぼ入れ違いに私たちは賢正学園からはお暇した。