ボーダー

「……ん。」

大きな窓の正面と横から入ってくる光で、目覚めはよかった。
いかんせん、腰や身体が痛い。
寝返りすら打てないのは重症だ。

隣でまだスヤスヤと寝息を立てている彼氏のせいに他ならないのだが。

……たまには、私から意地悪だ。
彼が着せてくれたのだろうか、私は下着姿な上にパーカーだ。
起こさないように布団を捲ると、彼は下に履いている薄い布1枚のみ。

それをそっと脱がせて、手と舌で優しく刺激する。
ほんの少し大きさと硬さを増したのが、嬉しかったり。

続きを、と思っていたら、上から声が降ってきた。

「おはよ、ハナ。
嬉しいけどさ、いつもならもっと大きさあるけど、昨日空っぽにしたからそこまで大きさないの。
見たいなら、一緒に住んだら、ってか何年か後に結婚したら見れるかもよ?

たまに可愛くてエッチな起こされ方するのもいいな。」

いつから起きてた?
しかも、サラッと一緒に住む、とか結婚、とかいうワードが聞こえたのは気のせいかな?

「昨日、ハナ自身が夕飯の席で言ってたんだろうが。
結婚は仕事が安定してからがいいって。
オレもそれには同意しただろ?

レンとメイちゃんは別格で、レアケースだ。
未成年で婚約者がいるってところもな。」

そう言いながら、頭や身体を撫でてくれるのはミツの優しさだ。

ん、と伸びをした彼は、私のところどころ跳ねた髪をゆっくり梳いて言った。

「そろそろ起きるとするか。
飯食ったらどっか行く?

どこがいいか考えておいてくれ。

昨日は、わざわざチャリで行ける高校までの道のりを電車使って行ったから、切符を買うための財布は持ってるだろ。」

恋人からの嬉しいお誘い。
嬉しいけどさ、どこか行くなら、一度家に帰らないと。

武田さんに相談すると、朝ご飯を食べたあと、私とミツを家まで送ってくれるという。
優しい幼なじみの執事に感謝だ。

朝食の席に降りてきたレンとメイちゃん。
メイちゃんの切れ長な一重の下にうっすらクマがある上に、身体を引きずるようにして歩いている。

「メイちゃん、大丈夫?」

「大丈夫なはずよ。
そこまでヤワじゃないもの。
……4回は、さすがにキツかった、ってボソッと言ったら項垂れてたけどね、私の婚約者。

まぁ、でも、向こうで会わせたい人もいるから彼をアメリカまで引っ張るために準備するわ。

来月の初旬、ってところかしら。

うまく間に合えば、浅川 将輝とその彼女の由紀ちゃんも連れていけるわね。

来月の初旬にある、アメリカの独立記念日は向こうじゃ祝日。
お祝いムードで、普段は禁止されている州でも花火が打ち上がるから、毎年蓮太郎と行ってるのよ。

今年は、去年までとは違うムードで行けるわ。何せ隣にいるのは恋人を通り越して婚約者だからね。」

朝からノロケるねぇ、メイちゃん。

私は、皆で朝ご飯を食べた後、武田さんに私の家まで送ってもらい、ミツと一緒に少しだけショッピングデートをした後に、結局ミツの家で映画を観たりして過ごしたのだった。

それから、数週間。
期末テスト前で部活もない。
本来は勉強にあてるのだが、この日は違った。
学校前の校門から、武田さんに車で空港まで送ってもらった。

レンが向こうでお世話になったという大人たちが同行して、浅川くんと由紀がアメリカに発つのだ。
浅川くんは、全治1ヶ月の傷を負っていた。
しかし、彼自身の頑張りのおかげか、はたまた由紀とカレカノになれた恋のパワーによるものか、もうすっかり回復している。

「由紀、元気でね?」

「ハナもね。
また会うわ、おそらく近いうちにね?」

「浅川くんと仲良くね?
イチャイチャはほどほどにね?
私とかメイちゃんみたいに、身体引きずらないように。」

「気をつけるよ、うん。」

由紀らしくない、自信なさげな口調。
さては、ロストするのは向こうで、になる感じらしい。

「痛いけどね、最初は。
そのうち慣れるよ。
くれぐれも、ちゃんとすることはしてもらってからよ?」

分かってる、と照れたような由紀の横顔は、久しぶりに見るので懐かしかった。

「ところで、由紀は学生だからビザはあるだろうけど、浅川くんはどうするの?
2人とも未成年で無職、どうやって一つ屋根の下で生活していく気?」

「それはね、蓮太郎くんのおかげなの。
宝月グループが傘下にしている芸能事務所があるみたいなんだ。
そのお偉いさんが、イケメンが足りない!って困ってたみたいなの。
俳優として将輝をどうか、って推薦したらあっさり事務所所属の俳優になっちゃって。

彼ったら、さりげなく奈斗くんとその弟の勇馬くん、自分の弟まで売り込んで所属俳優にしてて。

俳優しながらバンドとかやる気かしら。
蓮太郎くん自身も、所属俳優になってるみたいなの、便宜上。
仕事してもたまにみたいだけどね。

あ、話が逸れたわね。
所属俳優になったおかげで、勉強させてやるからには、個人事業主用のビザ発行してやる、って言われてビザもらえたの。

蓮太郎くんには感謝してるわ。」

やることがムチャクチャだ。
さすが、カネとコネと権力は使いよう、と豪語していただけある。

「機会があればこっちにも来てくれ。
レンの幼なじみのおふたりさん。
極上のノンアルコールカクテルを用意しておくから。」

レンが向こうで1番お世話になったという、村西という人にそう言われて、ぜひ、と返す。

近いうちに、また会うことになると思うから私の隣のオジサンの顔は覚えてほしい、とメイちゃんに言われる。

なんのことだろう?

その言葉は、期末テスト終わりの夏休み直前に分かることとなる。