ボーダー

バサ、と布団を退けて、ぎゅっと私を抱きしめるミツ。

「あーあ。
可愛い彼女さん泣かせちゃった。

ってか、そんなこと不安だったなら、いつでも言ってくれればよかったのに。

今日、武田さんとレンに、それぞれ同じこと言われたとき、心から安心したような顔してたから、よっぽど気にしてたんだな。

……ごめん、気づいてやれなくて。」

自然に、角張った指が涙をすくい取ってくれたのが嬉しかった。

「彼女さん泣かせておいて悪いけど、早く泣き止んでくれない?
その格好で泣かれるとさ、理性保たない。」

「……バカ!」

頭を優しく撫でられて、耳たぶを優しく噛まれる。
そのついでに、一言。

「1回、風呂入ってくれば?
それが終わって夕飯食べたら、あと2回、な?
溜めてる、って言ったでしょ?」

「……んも。」

ミツに言われて、大きな紙袋と、小さくたたまれたルームウェアとヘアブラシ、ボディークリームや化粧水が入ったポーチをカバンから取り出す。
そして元の通り、制服を着る。

「行ってらっしゃい。
どこにいるかは、武田さんを探して彼に聞けば多分わかるだろ。」

部屋を出て、とりあえず階段を上がると、すれ違った人から声をかけられた。

「おや、蒲田様。
旦那さまとメイ様をお探しですか?
おそらく、イチャラブも終わった頃でしょう。

夕食の準備はもう少しかかります。
その間、メイ様とご一緒にご入浴でもされるとよいかと。
2人でしたら、余裕で入浴できます。」

階段を降りて、廊下を曲がった先が脱衣室だと教えてくれた。
そして、武田さんはレンとメイちゃんがいる部屋に案内してくれたのだ。

目の前にそびえるドアをノックして、声をかける。

「メイちゃんがこっちにいるって、武田さんから聞いたの。
入っていいかな?」

ドアを開けてくれたのは、慌てて着替えたようで、レースのスカートは左右が逆になっているメイちゃん。
慌ててくれなくて、よかったのに。

「もう少し夕食まで掛かるみたいなの。武田さんが、2人でお風呂入ってくれば?って薦めてくれたの!
2人なら余裕で入れるって!

もし、嫌じゃなかったら、一緒にどうかな?って思ったの。
いろいろ話したいし。」

大きな紙袋をメイちゃんに持たせて、私は私彼女の背中を押す。
着替えがない、と戸惑う彼女を、いいから行こう、と部屋の外に連れ出す。

「よろしくしてやってな。
こんな感じで、ちょっとウザいだろうけど。」

「ミツ!
一言多いよ!」

ミツとレンは、どう過ごすんだろう。

「じゃあ、行こうか。」

メイちゃんの前まで歩いていって、案内を買って出た。
迷うことなく階段を降りて、廊下を歩いて角を曲がり、頑丈そうな扉を開く。
そこには、洗面台と縦型のロッカーが3つ並んでいた。
ロッカーは、どうやら指紋を登録するようだ。

その前に立つと、私は躊躇なく制服とその下に着ている上下を脱いだ。

「あ、メイちゃん、身体冷えちゃうから、今出しなよ、袋の中のもの。
気に入ってくれるか、分からないけど。」

私がメイちゃんに促すと、ようやく袋の中から中身を出してくれた。
やっとお披露目だ。
中身は、サテンのシャツドレスにロングパンツだ。
ピ別に紙袋に収まっているのは、ノンワイヤーの下着の上下セットだ。

「サイズ、フリーサイズにしてあるから。
こういうときにうまくタイミング合ってよかった。

身体のライン、きっちり出るのもいいけど、ライン拾わないのも逆に男としてはクラッとくるらしいよ?

だからさ、夕飯終わって少ししたら、私ももう1回ミツと一緒に過ごす。
だからメイちゃんも、レンと過ごすといいよ!
それ着てれば、さっきより夢中にさせられるかもね。」

「ありがと、華恵ちゃん。
嬉しい。」

ありがとうと言われると、選んだかいがあったというものだ。

さっき、紙袋を出した弾みで、アクセサリーポーチがメイちゃんの目線からは見えない位置に落ちてしまっていた。
これはいけない。

ついでに、さっき、レンとメイちゃんがいた部屋で、ミツが見つけたピアスを、アクセサリーポーチにしまう。

これで、万が一にもなくなることはない。

脱衣室から、浴室へ続く扉を開ける。
浴槽は少し広めだ。
中央に鎮座しているそれは、なんだか銭湯のお湯みたいで、特別な時間を過ごしている気さえした。

シャワーブースは2つあるので、そこで洗髪やらメイク落としを終える。

先に入っていたメイちゃんの横に入らせてもらう。
そして、彼女に言いたかったことを、少しずつ息継ぎをしながら話していった。

「メイちゃん、ごめん。
レンの恋人に、婚約者さんに、謝らなきゃ、ってずっと思ってたの。

レンが帰国したあの日、レンに抱かれたの。
私がそうして、って頼んだわけじゃない。
きっと、知らない男に、自分が知らないところで私が性暴力を受けたのが、ショックだったのよ。
しかも、その傷を癒せなかったのを気にしてたから、その罪滅ぼししたい一心で。
レンが一方的にね。

優しかったから、よかった。

だけど、メイちゃんがそれ、黙っていられるのも気まずいだろうから、機会があったら謝りたかった。
気を悪くしたよね、本当にごめん!」

気にしなくていい、と言う彼女に、さらに畳み掛ける。

「……レンの言うとおりの子だ、メイちゃん。
『寂しがりなのを心の奥の奥底の方に隠して、強がって。
それでいて論理的で、いつでも冷静。

可愛いセリフが聞けるのは、さっき部屋で楽しんでたようなことをする時だけ。

でも、そういうところが堪らない。』だって。

レン、照れながらそんなこと言ってたよ。

ちょっとくらい、私を責めてくれてもいいはずなのに、それはしなくていいの?
病院で女性医師に盾突いたみたいにね。
メイちゃんがツラいだけだよ?」

「んー?
ホントにいいの。
蓮太郎が気持ちよくなってるところ、華恵ちゃんも見たのか、って思うと、さっきは妬いたりしたんだけど。

気にしてても、蓮太郎が私の婚約者であることには変わりないし。

それに、今は蓮太郎の方も私にベタ惚れだからさ?
華恵ちゃんも、謝ってくれる必要なかったんだよ?」

優しすぎるよ。
ちょっとくらい、非難して、詰ってくれたほうが、気が楽なのに。

きっと、それをしてもお互いにメリットがないことも、ちゃんと分かってるんだ。

いい子すぎるでしょ。