ボーダー

カフェを出て、病院の廊下から入口付近の長椅子に向かうと、ジーンズにインさせたストライプシャツに、白いTシャツと黒のスニーカーという姿のレンがいた。

「やほー!
顔が暗いぞ、レン。

さては、婚約者さんが熱出したの、自分が側にいてあげられなかったから、とか思ってるでしょ。

そんなことないから。

女の人はね、月イチで体調悪くするのよ。
それを悟られまいと無理する人もいるから。
かく言う私だって、その時期は隣の恋人に勘付かれて無理するな、って言われるんだけど。

離れてるの、今だけだよ?
来年の冬くらいにはもう籍入れちゃうんでしょうが。
それまでの辛抱よ。

婚約者さんとも仲良くしておきたいし、楽しみにして来たんだからね!

宝月グループ関連で詰めたいこともあったんでしょう。
4限目の化学終わったら帰ったしね。
公欠扱いで体育サボれたの、羨ましいけど。
頑張るのはいいけど、レンこそ無理しないで。
レンが倒れたら、婚約者さんも困るでしょ。

あ、式するなら何でも手伝うから言ってね!」

わざと明るく言ったのが、彼への配慮だと分かってくれただろうか。

「さすが、幼なじみ。
分かるのな、何でも。

論理的で物事を合理的に考えるミツ、だけじゃ成り立ってない。
論理はミツが居れば考えられる。
オレも少しはな。

感情とか、人の気持ちを何より優先で考えるハナ、お前がいるから成り立つんだな、オレたちの幼なじみの関係。
というか、ハナとミツの恋人関係も、お互いがお互いの弱点を補完しあってるから、ケンカも特になく上手くいくんだろうな。

多分、式の準備とかでも、大いに頼りにさせてもらう。」

「うん!もちろん。」

レンの後についていく。

「人の感情に最初からフォーカスするのは悪いことじゃない。
むしろいいことなんだ。
というか、オレはそれができないから、周囲の人間に冷たい人、って印象を与えてしまうらしい。
レンの気持ちにフォーカスをあてたことで、少なからずアイツの心は楽になったはずだ。

人を説得したり納得させたりするのに、必ずしも論理が必要なわけじゃない。
つい感情的になってしまうのも人間らしさで、そこに安心感を覚える人間もいるんだ。
論理が欲しいなら、人間より機械に任せれば済む話だろう?

だから、あんまり気に病むな。

感情豊かで、一緒にいて癒やされるハナだからこそ、オレは好きになったんだし。」

「コラそこ!
オレの後ろでいちゃつかないでもらえます?
オレへの当てつけ?」

「ま、メイが復活したら、今のお前らより甘いイチャラブ見せてやるけど。」

メイちゃんが不憫だ。

そんなレンは、いきなり開いた目の前の扉に驚いたようだ。

「メイ?
お前、大丈夫なのか?」

レンがメイ、と呼ぶ子。
間違いない。
この子か、レンの婚約者さんは。

「初めまして!
蓮太郎がいつもお世話になってます!
蒲田 華恵です!
レン、貴女の婚約者の幼なじみしてます。
よろしくね!」

初めての子には、礼儀正しくするのが筋だ。
ぺこり、と身体を折り曲げてお辞儀をする。

いつも恋人っぽく、名前で呼んでいるようなので、初めはその呼び方をする。
慣れないが、いきなり私たち内輪で呼んでいるレン、という呼び方は相応しくない、と判断したのだ。

「よろしくね?
メイ、って気軽に呼んでいいわ。」

「うん、よろしくね!
メイちゃん!
映像で見てはいたけど、やっぱり身長高いから低いヒールでも似合うね!
20歳超えてる、って言われても驚かないよ!

すごく大人っぽい!
そんな感じだから、レンに溺愛されるのよ。
自信持ってね!」

「……御劔 優作だ。
……よろしく。

同じく、レンの幼なじみだ。」

ミツの自己紹介も終わったところで、私はいつの間にか病室前に来ていた武田さんから、例の紙袋を受け取って、メイちゃんに手渡した。

「メイちゃん、誕生日だったんだって?
少し過ぎちゃったけど、プレゼント!

気に入るか分からなかったんだけど、無地にしたし、大丈夫なはず!

気に入ってくれるといいんだけど。」

貰ってすぐにプレゼントを開けなかったのは、少なからず、プレゼントをあげた側である私の感情に配慮してくれている証だ。

いつの間に入ってきたのか、武田さんが和気あいあいとした雰囲気を一度ぶったぎった。

「私が、まとめて家までお送りします。
メイ様も、熱は下がったようですし。
家といっても、旦那様の家は超豪邸にリフォーム中ですので、リフォーム期間中なら使っていいと言われている別荘に参りましょう。

未成年の方々を夜に帰路につかせるほど危険なことはございませんので。」

車は45分ほど走っただろうか。
車は、曲線と直線がないまぜになった外観と、屋上に庭園かテラスか、がある建物の駐車場に停まった。

武田さんについて、中に入った。

「うわ、広い玄関!
豪邸、って感じ!

レン、お邪魔します!」

「確かに。
本当に、こんなところにお世話になっていいのか?」

螺旋階段に慣れなくて目が回りそうになりながらも、皆についていった。