ボーダー

カフェに入ると、出入り口近くのソファー席が運良く空いていた。
ここなら、万が一にもレンから電話なりメールなりで連絡が来たときもすぐに動ける。

ミツにオーダーを任せて、私は彼の分の荷物も持ち、席取り係を担う。

『ミツ、出入り口近くのソファー席、空いてたからそこにいるね!』

『ありがと。
よくそんな席空いてたな、この時間。
そんないい席確保してくれたいい子には、後でとびっきり甘いご褒美あげるね?

何回ご褒美欲しいか、後で教えてな。
オレはこういうときのために、割と溜めてたから3回はイケるけど。

こういうこと言うと、ハナは顔真っ赤にしちゃうからさ?
今、可愛い顔が見れないのが残念だな。』

こういうときにテレパシー機能は役に立つ。

昼間からする会話ではないのだが、テレパシーなだけマシだ。

そして、幼なじみかつ恋人の彼は、こういうときに何も言わなくても、私の好きなものを頼んでくれるのだ。

『アールグレイのブラックにホワイトモカシロップ追加、ちゃんと頼んだからな。』

『わーい、さすがミツ!
ありがと!』

『コーヒー苦手な奴は肩身狭いんだよな。
せめて別のカフェが、この病院横に入ってれば良かったのにな。

ま、飲めなくても、俺が飲んでやるけど。
間接キス、もう文句ないだろ?
何せオレ、お前の彼氏だぜ?』

一言多い。
こういうときにこういうこと言うの、照れるからやめてほしい。

『そこは病院のテナントに文句行っても仕方ないよ。
病院にこのカフェ、っていうので私たちみたいなお見舞い客も来るんだし、貴重な収入源なんでしょ。』

テレパシー機能付きブローチには感謝だ。
伊達さんには足を向けて寝られない。

見知った制服が、トレーをテーブルに置いてくれる。

「ありがと、ミツ。
あとで払うね。」

「お金はいいよ。
夜に可愛い声聞かせてくれれば、お茶とケーキ代くらいは奢る。
最低2回な。」

「……バカ。」

男の人って、1度そういうこと考えるとそれしか頭にないのか。

そういえば、番号が書かれた立て札が立っている。
あれ、何か頼んだ?

緑のエプロンの店員さんが、紅茶のアーモンドミルクケーキを私たちのテーブルに運んできてくれる。

「ハナの分。
最後の時間、体育でしんどいー
なんて女子勢と文句言いながらも頑張ってたご褒美。
しかも女子のくせに柔道。」

こんなのまで頼んでくれてたなんて、聞いてない。
幼なじみ兼恋人はそれなりに鍛えてあるカラダのくせに優しすぎる。

「いいの?」

「いいから。
早く食べないと、手を付ける前に呼び出し喰らうぜ?」

そうでした。

遠慮なくケーキをいただく。

はちみつ入りアーモンドミルクホイップクリームとダージリン紅茶パウダーが堪らない。

アールグレイとダージリン。
どちらの紅茶も好きな私にとっては天国だ。

オーダーしたであろう、カプチーノをストローで吸いながら、私をじっと見つめるミツ。

「ん?なぁに?
私の顔に何かついてる?」

「いや、はしゃぐ彼女が可愛くて見てるだけなんだけど、逆に何か文句ある?」

可愛い、なんてサラリと言われたら、降参するしかない。

それにしても、と、私の傍らにある大きな紙袋を見やって彼は話し出す。

「んー?
気が利くいい彼女持てて幸せだな、って。
レンの婚約者のやつに過ぎたけど、誕生日プレゼント買いたい、参考までにレンの意見も聞いて自分で選ぶって言ったときは、ビックリしたけどな。
そういうとこだよ、敵を作らない、全方位の優しさ持てるとこ。
昔から好きなところの1つだ。」

そう言った彼の横顔は、少し赤い気がした。

運動終わりで糖分は不足していたらしい。
お皿に乗っていたケーキはもう既になくなっている。

こういうのは早いのな、女子って。
小声で何かを言っていた恋人の言葉は、聞かなかったことにする。

「誕生日過ぎてる、って聞いて、慌てて調べて買ったから。
お金は後払いにしてくれれば、オレが払う、って言ってくれたレンには気持ちだけ貰っておくって言ったんだけど。
レンにはネタバレはさせてるけど、それは一部だけだし。」

いくら幼なじみでも、異性なのだ。
ルームウェアだけではなく、いくら室内で着るためのノンワイヤーでも、下着の上下が入っているとは言えなかった。

ちょうどアールグレイのブラックが入ったグラスが空になった頃、レンからメールが来た。

『メイがやっと寝てる部屋教えてくれたから、看病しながら同じ部屋にいたんだ。

そろそろ目が覚めるだろうし、お前ら幼なじみと対面させるいいタイミングだろうから。

病院の入り口そばの長椅子にいる。
そこからはオレが案内するから。』

大事な人の誕生日プレゼントに何かあっては困るからと、トレーの片付けは買って出てくれたミツ。

これ、後でちゃんと、ご褒美あげなきゃな。