〈ハナside〉
予鈴が鳴った。
体育が最後の時間なのは、キツい。
更衣室に籠もり、ジャージから制服に着替え、ジャージは畳んで、私が好きな洋服屋のショップ袋にしまった。
更衣室から教室に向かうピロティのところで、ミツに肩を叩かれた。
……そうだった。
教室に一緒に戻って、ホームルームを終えないと放課後にならないのだ。
普段は部活なのだが、今日はサボり。
レンがいる、病院に行くのだ。
帰りが遅くなってどこかに泊まることを見越して、用意はしてある。
浅川くんと由紀も気になるけど、今日、レンの婚約者さんに会えるかもしれないんだ!
どんな子なんだろう。
楽しみ。
『今から学校出るよ!』
そう、彼にメールをすると、レンから早速返信が来た。
『武田が迎えに来る。
校門前で待つように』
返信、早いな……。
『悪いんだけどさ。
着いたら、病院横のカフェで時間潰してて。
オレの可愛い婚約者、あっちで無理したのか、ぶっ倒れたから。
熱出して診てもらってるよ。
あ、あの件は武田に伝えてあるから、ちゃんと後ろに積んで来てくれてるはず。
安心していい。』
メールの返信は相変わらず早い。
ミツにその旨を伝える。
「そっか。
まぁ、体調悪い中会っても仕方ないしな。
体調戻るまで、病院横のカフェで待つか。
レンは、オレらへの連絡係として、病室前で待機してもらえばスムーズか。
ハナは、もう返信しなくていい。
オレがアイツに連絡するから。
ハナは、窓の外を見つつ、先に校門前にいてくれ。
武田さんが万が一、すぐに来たら困るし。
来たら、分かってるな?」
ブローチを指差すミツに、頷きを返した。
重い教科書がほとんど入っていない代わりに、泊まりを意識した洗面用具やルームウェアが入ったスクールバッグを背負って校門に向かいながら、思った。
そういうのがすぐに言えるミツは、
将棋とかチェスとか、強そう。
というか、実際には強いんだけど。
実際に自分たちがどう動けば無駄がないか、しっかり考えた上で見極めて、最善の策を選び取っている。
私には真似はできない。
論理より、自分であったり、他人の感情が優先されてしまうのだ。
校門前で待っていると、見覚えのある低い車体の車と、短いクラクション。
このクラクションの鳴らし方は、武田さんだ。
『ミツ!
武田さん、既に校門前で待ってる!』
ブローチのテレパシーで伝える。
『……了解。
今は、昇降口で靴を履き替えている最中だ。
あと3分しないでそちらに着ける。』
『ありがと。
そう伝えるね?』
「武田さん、お疲れ様です!
ミツ、あと2分しないうちに来ます。
せっかく来てくれたので申しわけないですが、あと少しお待ち下さい。」
「かしこまりました。
蒲田様は本当に礼儀正しい方で。
構いませんよ。
私は、何かあると困るから早めに来たまで。
元はといえば、旦那様が、私が来る正確なお時間を伝えなかったから、こうなったのです。
迎えに来る、とだけ言われても、5分後なのか1時間後なのか分からないと、待たされる側も困ってしまいますよね?
その辺りが、まだまだ次期当主としては未熟と言わざるを得ません。」
はぁ、と困ったようにため息をつく武田さん。
「武田さん、充分お気持ちも分かります。
しかし、ヤツは今、病院にいます。
普段ならいざ知らず、病院内ですと所構わず連絡を取れるわけではない。
電話を使えるスペースに移動したくても、移動出来ないこともある。
ましてや、レンが今待っている人は入院患者というわけではない。
かといってメールを使うにもタイムラグがありすぎる。
常に携帯を見ていられるオレたちならまだやりようがある。
しかし、車を運転される武田さんがメールの相手だと、逐一メールで連絡、というのもやりづらい。
オレたち3人はブローチを使用したテレパシーは出来るが、武田さんとレンでは無理だ。
以上の理由で一概にレンを未熟だと決めつけるのは早計な気がしますけど、その点はいかがですか?
武田さん。」
この、論理的かつ、苗字に相応しい、剣みたいな論破の仕方。
それが自分といくつ離れた年上でも構わない。
……ミツしかいない。
「いつの間に来てたの?」
「声は盗音機で拾ってたからな。
それにしても、年上の貴方が、しかも自分の仕える主に対してこんな言い方はないと思いますけど。」
「今回のことは、たまたま、悪い条件が重なっただけで、誰が悪いとかの話ではないと思います。
もう、同じことが起きないようにすればよいだけで。
ここでいつまでもこうしていても、目的地に着くのが遅くなるだけ。
貴方の主も心配するでしょう。
早く行きましょう、武田さん。
ほら、ミツも早く乗る!」
私は、ミツの腕を引いて車に乗せた。
車中で、武田さんにベストカップルだと褒められた。
「御劔様は、論理的に論破して人を動かすタイプ、対して蒲田様は、感情で人を動かすタイプです。
相反するように見えるおふたりだからこそ、自然にお互いの弱点を補い合える。
だからこそ、お互いに惹かれたのでしょう。
惹かれ合うことは必然だったともいえます。」
武田さんのお話は納得できた。
確かにそうなのかもしれない。
つい、感情的になってしまってイラついたり、時には泣いたり。
隣にいてくれるミツの目には、情緒不安定なだけの子に映っていないか、不安だった。
そういうわけでもないらしい。
少し安心できた。
「さぁ、着きました。
私も、旦那さまより連絡を受ける係に徹しますので、お2人でごゆるりとご歓談をお楽しみください。」
車から降りる際に、大きな紙袋を私に手渡してくれた武田さん。
「ありがとうございます!」
「とんでもないです。
喜んでくださるとよいですね。」
武田さんにミツと2人で頭を下げて、カフェに入った。
予鈴が鳴った。
体育が最後の時間なのは、キツい。
更衣室に籠もり、ジャージから制服に着替え、ジャージは畳んで、私が好きな洋服屋のショップ袋にしまった。
更衣室から教室に向かうピロティのところで、ミツに肩を叩かれた。
……そうだった。
教室に一緒に戻って、ホームルームを終えないと放課後にならないのだ。
普段は部活なのだが、今日はサボり。
レンがいる、病院に行くのだ。
帰りが遅くなってどこかに泊まることを見越して、用意はしてある。
浅川くんと由紀も気になるけど、今日、レンの婚約者さんに会えるかもしれないんだ!
どんな子なんだろう。
楽しみ。
『今から学校出るよ!』
そう、彼にメールをすると、レンから早速返信が来た。
『武田が迎えに来る。
校門前で待つように』
返信、早いな……。
『悪いんだけどさ。
着いたら、病院横のカフェで時間潰してて。
オレの可愛い婚約者、あっちで無理したのか、ぶっ倒れたから。
熱出して診てもらってるよ。
あ、あの件は武田に伝えてあるから、ちゃんと後ろに積んで来てくれてるはず。
安心していい。』
メールの返信は相変わらず早い。
ミツにその旨を伝える。
「そっか。
まぁ、体調悪い中会っても仕方ないしな。
体調戻るまで、病院横のカフェで待つか。
レンは、オレらへの連絡係として、病室前で待機してもらえばスムーズか。
ハナは、もう返信しなくていい。
オレがアイツに連絡するから。
ハナは、窓の外を見つつ、先に校門前にいてくれ。
武田さんが万が一、すぐに来たら困るし。
来たら、分かってるな?」
ブローチを指差すミツに、頷きを返した。
重い教科書がほとんど入っていない代わりに、泊まりを意識した洗面用具やルームウェアが入ったスクールバッグを背負って校門に向かいながら、思った。
そういうのがすぐに言えるミツは、
将棋とかチェスとか、強そう。
というか、実際には強いんだけど。
実際に自分たちがどう動けば無駄がないか、しっかり考えた上で見極めて、最善の策を選び取っている。
私には真似はできない。
論理より、自分であったり、他人の感情が優先されてしまうのだ。
校門前で待っていると、見覚えのある低い車体の車と、短いクラクション。
このクラクションの鳴らし方は、武田さんだ。
『ミツ!
武田さん、既に校門前で待ってる!』
ブローチのテレパシーで伝える。
『……了解。
今は、昇降口で靴を履き替えている最中だ。
あと3分しないでそちらに着ける。』
『ありがと。
そう伝えるね?』
「武田さん、お疲れ様です!
ミツ、あと2分しないうちに来ます。
せっかく来てくれたので申しわけないですが、あと少しお待ち下さい。」
「かしこまりました。
蒲田様は本当に礼儀正しい方で。
構いませんよ。
私は、何かあると困るから早めに来たまで。
元はといえば、旦那様が、私が来る正確なお時間を伝えなかったから、こうなったのです。
迎えに来る、とだけ言われても、5分後なのか1時間後なのか分からないと、待たされる側も困ってしまいますよね?
その辺りが、まだまだ次期当主としては未熟と言わざるを得ません。」
はぁ、と困ったようにため息をつく武田さん。
「武田さん、充分お気持ちも分かります。
しかし、ヤツは今、病院にいます。
普段ならいざ知らず、病院内ですと所構わず連絡を取れるわけではない。
電話を使えるスペースに移動したくても、移動出来ないこともある。
ましてや、レンが今待っている人は入院患者というわけではない。
かといってメールを使うにもタイムラグがありすぎる。
常に携帯を見ていられるオレたちならまだやりようがある。
しかし、車を運転される武田さんがメールの相手だと、逐一メールで連絡、というのもやりづらい。
オレたち3人はブローチを使用したテレパシーは出来るが、武田さんとレンでは無理だ。
以上の理由で一概にレンを未熟だと決めつけるのは早計な気がしますけど、その点はいかがですか?
武田さん。」
この、論理的かつ、苗字に相応しい、剣みたいな論破の仕方。
それが自分といくつ離れた年上でも構わない。
……ミツしかいない。
「いつの間に来てたの?」
「声は盗音機で拾ってたからな。
それにしても、年上の貴方が、しかも自分の仕える主に対してこんな言い方はないと思いますけど。」
「今回のことは、たまたま、悪い条件が重なっただけで、誰が悪いとかの話ではないと思います。
もう、同じことが起きないようにすればよいだけで。
ここでいつまでもこうしていても、目的地に着くのが遅くなるだけ。
貴方の主も心配するでしょう。
早く行きましょう、武田さん。
ほら、ミツも早く乗る!」
私は、ミツの腕を引いて車に乗せた。
車中で、武田さんにベストカップルだと褒められた。
「御劔様は、論理的に論破して人を動かすタイプ、対して蒲田様は、感情で人を動かすタイプです。
相反するように見えるおふたりだからこそ、自然にお互いの弱点を補い合える。
だからこそ、お互いに惹かれたのでしょう。
惹かれ合うことは必然だったともいえます。」
武田さんのお話は納得できた。
確かにそうなのかもしれない。
つい、感情的になってしまってイラついたり、時には泣いたり。
隣にいてくれるミツの目には、情緒不安定なだけの子に映っていないか、不安だった。
そういうわけでもないらしい。
少し安心できた。
「さぁ、着きました。
私も、旦那さまより連絡を受ける係に徹しますので、お2人でごゆるりとご歓談をお楽しみください。」
車から降りる際に、大きな紙袋を私に手渡してくれた武田さん。
「ありがとうございます!」
「とんでもないです。
喜んでくださるとよいですね。」
武田さんにミツと2人で頭を下げて、カフェに入った。



