「さて、皆様。
夜ですので、お腹も空いたことでしょう。
夕食のご準備をいたします。

それまで、おくつろぎください。

蒲田様はメイ様、御劔様は旦那様とご一緒でお願いいたします。

なお、お話することがございます。
旦那様とメイ様、お部屋に荷物を置いたら私のところにおいでくださいませ。」

武田さんにそう言われて、私と華恵ちゃんはベッドが2つある部屋に案内された。

ベッドは少し離れて配置されている。
大きな窓が正面と横にあるため、朝になると入る陽の光で、自然に目覚めることができそう。

エアコンも人間を感知すると勝手に入る仕組みになっているようだ。
どこかに、この別荘全部の空調を管理する部屋とかありそうで怖い。

「行っておいで?
メイちゃん。
何ならイチャラブしてきてもいいよ?

夜、というかお風呂に入るときにでも、私といろいろ話す、ってことにして!
行ってらっしゃい!」

ベッドに腰掛けて正面の、窓に面して置かれているカウンターテーブル。
そこに自らの荷物と私の荷物まで置いてくれた華恵ちゃん。
気が利くなぁ。

声掛けのタイミングも秀逸だ。
まぁ、彼女本人もイチャラブしたいのかもしれないが。

「あの、華恵ちゃん、だっけ?
ありがとう。
行ってきます!」

ピアスを外す時間はなさそうだ。
仕方がない。

アクセサリーケースが紙袋の中にあることを確認した後、そそくさとベッドルームを出る。
既に武田さんの横に蓮太郎がいた。

案内されたのは、階段を降りた先にあるリビング。
半円型の、座り心地の良いふかふかのソファーに、蓮太郎と2人で座る。

武田さんは、持っていたパソコンを開いて、私と蓮太郎の顔を見ながら言った。

「ここからは、宝月グループとしての、真面目な話をお2ついたします。
イチャラブは、それまでお預けです。
いいですね?」

真面目な話?
1つは想像がつくけれど、もう1つは何だろう。

「1つは、会見のお話です。
旦那様は、高校で文化祭という、学校内で行われる行事で忙しくなる前に、会見を開きたいとお望みです。
文化祭の後ですと、マレーシアへの修学旅行もございます。
行事の前が望ましいでしょう。

メイさま、その会見に同席されるご意向、ということでお間違えなかったでしょうか?」

その話を詰めるために、こっちに来たのだ。

「ええ。間違いないわ。
会見を行うなら、婚約者の私も同席するわ。」

「さすが、宝月家の当主の妻になられるお方。
そう申していただけて、私も心強いです。」

実際の会見の日取りは、後に決めるとして、平日の夕方、旦那さまの学業に影響しないよう、金曜日の夕方を予定しております。
いかがでしょうか?」

「素直に良いと思うわ。」

当日の5日前から、この日本に私も居れば良いようだ。
会見場所のホテルや、当日の服装のアドバイスは、こういう場に経験豊富な柏木グループの人たちが動いて手配をしてくれるという。

柏木グループ、で思い当たった。
エンパイア・ステートビルで私や茜さんをアテンドしてくれた人たちだ。
あの人たちがサポートしてくれるなら、強力な味方になる。

武田さんはにっこり微笑むと、1枚の紙を見せてきた。
8月下旬の平日金曜日、夕方18:00〜宝月家当主による会見と書かれている。

17:40分にはリムジンで会場入りし、最終チェックをしてから臨むという。
そして、質疑応答等も含めた会見が終わったらそのまま立食パーティーへと移行するらしい。

「柏木グループの方が、立食パーティーでの所作もご教示くださいます。
また、まだ未成年の旦那さまや奥様にお酒を勧めることはせぬよう、関係者にはよく言付けしてあります。
ご安心ください。

それでも万が一、ということがありましたら、私か、柏木グループの方に遠慮なくお申しつけくださいませ。」

「大丈夫。
万が一、何かあっても、大事な婚約者はオレが守るから。」

ぎゅ、と蓮太郎に抱きしめられたが、すぐに身体を離されてしまった。

「武田、可愛い婚約者をつい抱きしめちまったから保たねぇ。
早く2つめの話を終わらせてくれ。
どうせ、柏木 志穂さんからの、宝月家邸宅の図面と、実際のイメージの共有&意見募集だろ?」

可愛いとかさらっと言わないでよ、蓮太郎!

やれやれとでも言いたげに、パソコンで映像再生ソフトを開いて、ファイルを再生した武田さん。