……どれくらい眠っていたのだろうか。
風邪をひいたのは睡眠不足のせいもあったようだ。

眠ると、気分もスッキリして、身体を引きずるようにして診察室に行ったときよりは、軽くなった気がする。
傍らのアクセサリーケースから、ピアスをとって元通りにつけた。

ベッドサイドのテーブルに、ペットボトルの水と、氷水で冷やしたタオル、体温計が置いてあった。
引かれた椅子に、ほんのり香水の残り香。
この香りは、私の婚約者が愛用しているもの。

ここに、ずっといてくれたんだ。

何だか嬉しくなってくる。

念のため、体温を図ってみると、平熱の36.2に戻っていた。

看護師さんにそのことを伝えようして、病室の外に出ようとした。
すると、誰かとぶつかった。

見覚えのあるストライプシャツが見えた。

「メイ?
お前、大丈夫なのか?」

蓮太郎を部屋に招き入れると、彼の後ろには初めて見る男女がいた。

グレーのブレザーとスカート。
白のワイシャツ。
きちんと結ばれたエンジ色のリボン。
男性の方はスラックスにエンジ色のネクタイをしている。

「初めまして!
蓮太郎がいつもお世話になってます!
蒲田 華恵です!
レン、貴女の婚約者の幼なじみしてます。
よろしくね!」

ぺこり、と身体を折り曲げて、挨拶をする女の子。
長い髪は後頭部で束ねられ、さらにその毛先は編まれている。

身長は、165cmある私より6cmほど低い。
その分、仕草に愛嬌があって可愛い。
胸も、私と同じくらいはありそうだ。

初めからあだ名ではなく、蓮太郎という呼び方をしたのは、私への配慮か。
気が利く子だ。

「よろしくね?
メイ、って気軽に呼んでいいわ。」

「うん、よろしくね!
メイちゃん!
映像で見てはいたけど、やっぱり身長高いから低いヒールでも似合うね!
20歳超えてる、って言われても驚かないよ!

すごく大人っぽい!
そんな感じだから、レンに溺愛されるのよ。
自信持ってね!」

同性の、しかも日本の女の子にそう言われると嬉しい。

ピンときた。
この子か。
蓮太郎が告白して、玉砕した女の子は。

「……御劔 優作だ。
……よろしく。

同じく、レンの幼なじみだ。」

前髪をセンターで分けた、黒髪の男の子。
身長は蓮太郎よりほんの少し低いくらいだ。

華恵ちゃんの彼氏なのかな?
きっとそうだよね。

華恵ちゃんは、病室の外から大きい紙袋を受け取って、私に渡してきた。

「メイちゃん、誕生日だったんだって?
少し過ぎちゃったけど、プレゼント!

気に入るか分からなかったんだけど、無地にしたし、大丈夫なはず!

気に入ってくれるといいんだけど。」

後で見ることにしよう。

それにしても、華恵ちゃんがいい子すぎる。
こんないい幼なじみが近くにいるのに、蓮太郎が私を選んでくれたのが嬉しい。

このまま雑談しそうになった雰囲気は、武田さんが流れを切る。

「私が、まとめて家までお送りします。
メイ様も、熱は下がったようですし。
家といっても、旦那様の家は超豪邸にリフォーム中ですので、リフォーム期間中なら使っていいと言われている別荘に参りましょう。

未成年の方々を夜に帰路につかせるほど危険なことはございませんので。」

私は、対応してくれた研修医にお礼を言った。
私が楯突いた女性医師は、申し訳無さそうに、私に向かって頭を下げた。

車は45分ほど走り、別荘に到着した。

見えたのは、木造3階建ての住宅。
直線と曲線を上手く融合させた造りで、屋上庭園なるものもうっすら見える。

ここ、日本よね?

白い壁で出来た玄関。床も白で、靴で汚してしまっていいものか迷う。

玄関の奥にはらせん階段が見えた。
らせん階段は、蓮太郎の祖父母の家にもある。

好きね、らせん階段。

「うわ、広い玄関!
豪邸、って感じ!

レン、お邪魔します!」

「確かに。
本当に、こんなところにお世話になっていいのか?」

華恵ちゃんと御劔くんも、所在なさげにキョロキョロと辺りを見回しながら進んでいる。

こんな家が、日本にあったなんてね。