ボーダー

まったく、コイツら……。

まぁ、無事に珠美、じゃなかった、由紀を自分のものにできてよかった。

「お兄ちゃん、良かったね!」

「お兄ちゃん、由紀ちゃんが学園に来ると嬉しそうにして、帰る頃になると寂しそうにしてたもんね!
帰り際に何やら2人で話してたみたいだし!」

中学生は純粋でいいよな。
歳下の目はごまかせない。

良太郎と勇馬。
良太郎の方は、さっき、俺より背が高い、さっき書類を読み上げていた男の弟のようだ。

言われてみれば、鼻筋と目の辺りが似ている。
やたらと理知的な雰囲気もそっくりだし、よく周りを見ている。
口が達者で、学園の皆のまとめ役をしていたのも頷ける。

「あれは、体調崩してないか心配してただけだよ。
この母親にこの娘あり、って感じで何足もわらじ履くのが好きみたいだし。
また倒れられちゃたまんねーし。」

「……また、って?」

そうか、話したことはなかったな。
由紀もいることだ。
話してやるか。

由紀を、同年代の異性として意識するようになった、あの日のことを。

……あれは半年前のことだ。
ようやく秋めいてきて、少し寒い日だった。
俺がカウンセリング前に、あわよくばまた珠美と話せればいいと思って、部屋で本を読みながら待っていた時のこと。

珠美は、カウンセリング前に紙の束を大量に運んできて、重そうにテーブルに置いた。
カウンセリングに使う資料なのだろうか。

手を貸してと言わなかったのも珠美らしい。
テーブルに資料を置いた際、長袖の黒いニットの中が見えそうだった。

……お前、俺じゃなかったら襲われてるぞ。

その後、こめかみの辺りを押さえながら、俺が座る椅子の方に歩いてきた。
その足取りはいつもみたいにヒールの音を響かせながら、ではなくふらついていた。
倒れそうだったので抱き止めてやる。

「あっぶね。
……おい、珠美。
ふらついてんじゃん。
体も熱いし。
具合悪いなら大人しく寝とけ。」

抱き留めてやる際に、ニットの上からCは確実にある胸を触ってしまったが、不可抗力だ。
どことなく、いや確実に、珠美の身体は熱を持っていた。
疲れているくせに、無理するからだ。

本人は気丈に大丈夫、と言うが、そう言おうとした声はすでに掠れていた。
歩くのすら辛そうだったので、俺は自分の肩を貸してやった。

「重いし、悪いよ……。
それに、カウンセリングのクライアントに助けてもらうわけにはいかない。」

何がクライアントだ。
いっちょ前のカウンセラーみたいな口、ききやがって。
……こういう、論理で動く奴は、いくら口で言っても無駄なのだ。
データで示さなければ。
数字は嘘をつかないからな。

たまたま棚の上に置いてあった体温計を、無理矢理彼女の服の中に入れてやる。
緑のレースとフリル、リボンがちらりと見えてしまったが、これも不可抗力だ。
俺の下半身の息子が質量を増したが、気にしないことにした。

いつか、何年かかるか分からないが、コイツと恋人になれたその時に、じっくり拝ませてもらうことにしよう。

数分後、ピピッ、と無機質な音が響いた。
体温計を取り出すと、『37.7』という数字を示した。
それを珠美に見せる。

「誰がどう見ても熱あるだろ。
空いてるベッド探してやるから、そこで大人しくしておけ。」

自覚すると余計具合が悪くなる、というのはよくあるパターンだ。
珠美の身体の力が一瞬抜けた。
素直に俺に身体を預ける気になったようだ。

俺も男だ。
少なからず好意を抱いている女を抱き上げるとそういう行為を思い浮かべてしまう。

今はそんなことを考えても仕方がない。

抱き上げてみると、存外に軽かった。

コイツ、ちゃんと3食飯食ってるのか?
飯のふりしてお菓子、とかじゃないよな。

……軽すぎる。

たまたま、カウンセリング前に様子を見に来た男性のカウンセラーに尋ねる。

「すみません、空いてるベッドとか、ないですか?
珠美さん、熱あるみたいで。
寝かせたいんです。」

体温計を見せると、ハッとした顔をしながらも3つ隣の部屋に案内してくれた。

部屋の奥にあるベッドに、花柄の膝丈スカートがシワにならないように気をつけながら、優しく寝かせてやる。

そして、これ以上何か起きないうちに、手早く布団をかけてやった。