オレは、ハナを家に送り届けると、部屋のベッドに寝転がり、天井を見上げながら、さっきの出来事を思い出す。

はあ。

レンが帰って来たら、十中八九殴られる。

ハナには手を出さない。

そう誓ったのに。

見ず知らずの何人もの男たちにワケがわからないまま犯されて傷付いてるハナを、放っておけなかった。

……手を出してしまった。
ファーストキスが、ハナで良かった。
下手じゃなかったかな。
そんなことまで考えてしまう。

考え込んでいると、オレの携帯がうるさいくらいの着信音を奏でる。

……チッ。
誰だ?

"宝月 蓮太郎"

画面には、そう書かれている。

一番、今見たくない名前。

無視しようかとも思ったが、電話に出ることにした。
考え込んでいたことがバレないよう、普通のテンションを装って。

「もしもし?レンか?」

最初に話すのはありきたりな話だ。
中学校のこと、委員会のこと、部活のこと。

やはりあちらは自由の国。
自主性を重んじる。

こちらよりのびのびしている、と感じた。

『何かあったのか?ミツ。
さっきから度々声が小さいからな。
いつもそうだよ?
ミツが考え事してるときは。』

しばしの沈黙。
気まずい。

「帰ったら、オレのこと殴っていい。
ってか、一発どころか気の済むまで殴れ。」

そう、前置きをしてから、今日あったことを、包み隠さず話す。

『気にすんな。
オレは、帰ってもミツを殴ったりはゼッタイしないし。
お前は、ハナが負った傷をちゃんと癒してやったんだろ?
オレも、多分そうする。
その時ミツの立場だったとしたなら。』

……この時は、オレもレンも知るよしもなかった。
レン自身が、後に今のオレの立場を経験するなんて。

「……また、電話する。
……何かあったら。」

正しくは、何かあったら、また電話する、だ。

普段はしないミスをする辺り、オレも動揺しているのだろう。

『今回は、妊娠の可能性はなくて安心した。
だけど、万が一にも。
オレが帰国して、三角関係に決着がついた頃。お互い学生の立場で身篭らせたらそのときは、遠慮なく殴らせてもらう。

お前のことだ、ちゃんとするだろうけど。』

それはない。
その時は、ちゃんとやるべきことはやるよ。

『ああ、分かってる。
……お前も、元気でやるんだな。』

そう言って、電話を切った。

幼なじみの優しさが、身にしみた気がして、穏やかな気持ちで眠りにつくことができた。