〈レンside〉

あー、ビックリした。

「こんにちは。」

オレは、わざと他人行儀で家に入った。
祖父母は元気だろうか。
全然連絡すらもしていなかった。

やけに豪華なこの家も、足を踏み入れるのは久しぶりだ。

中庭に面したリビングで、巴姉さんが何食わぬ顔をして祖父母と談笑しているんだもん。

巴と蓮太郎、久しぶりの再会なんだから。
ゆっくり話してきたらどうだ?」

「そうだよ!
話して来るといいわ。
巴が先か蓮太郎が先か。
私としては長男の花婿姿を先に見たいんだけどねぇ。
独身で会えるのはもうあまりないかもしれないんだよ?」

「じゃあ……久しぶりに話そうかしら。
ねぇ、蓮太郎?」

「姉さんが、そう言うなら。」

「書斎でも和室でもいいよ。
空いているから、好きにしなさい。」

祖母が言うから、せっかくなので書斎で話すことにする。

「ごめんな、久しぶりなのにゆっくり話せないで。
メイ……オレのガールフレンドと会うのも、久しぶりだろ?
少し話していてくれ。」

これで、いくらメイでも気付いてくれるはず。

メイはオレにとって、生涯一緒に居たい本命の相手だということに。

案の定、顔を真っ赤にして戸惑っているメイの相手は祖父母に任せよう。

年の功でメイにいろいろなアドバイスをくれるはずだ。

階段を上がって、部屋に入る。
書斎の横の長いテーブルは、さながらカフェのカウンター席のようだ。
そこに、2人で並んで座る。

「あの…蓮太郎……
本当にごめんなさい!」

いきなり謝罪の言葉を口にして、深く頭を下げた姉さんに面食らった。

「メイちゃんに……TM事件のことをまだ気にしているって聞いたの。
私……蓮太郎のことが嫌いで仕方ないからだから言わなかったんじゃないわよ?
そこは誤解しないで。

貴方がアメリカに来た理由は、ちゃんと1人で考えて、悩んで恋愛に決着をつけるためだったのでしょう?
ハナちゃんか……メイちゃんか、二者択一しなきゃダメだものね。

貴方はそれだけで手がいっぱいで、難しい説明を今しても混乱させるだけだと思ったの。

ちゃんと言えば良かったわね。

しばらく顔を見ない間に、1人の女の子と人生を共にする覚悟ができるくらいに成長していたんですもの。
要らない気遣いをして、悪かったと思っているわ。」

唇を噛み締めて、姉さんの言葉を脳内で反芻する。
姉さんはちゃんと……オレのことを、考えてくれてたんだ。

幼なじみの女の子か、現地で出会った、守ってあげたい女の子か。
2つに1つ。
どちらを選ぶか迷っていたことも……ちゃんと分かってくれてた。

やっぱり……巴姉さんは優しい巴姉さんのままだったね。

「姉さん。オレも、ごめんなさい…!
勝手に勘違いして……今までずっと姉さんを避けてた。
本当にごめん!」

「大丈夫よ。
本当に、今回の件はお互い様ね?
コミュニケーション不足が原因だから。
今後は気をつけましょう。」

そこで言葉を切る姉さん。
真剣な目をして、オレを見つめる。

「覚悟はあるのね?蓮太郎。
冥ちゃんを、生涯幸せにする覚悟が。」

「もちろん。
じゃなかったら、祖父母の、自分の身内の前でガールフレンドなんて言わないし。

まぁ、まだこっちの国でも日本でも、法律的に婚姻が認められない年齢なのが惜しいけど。」

「……良かった。貴方にその覚悟があるのなら私も協力を惜しまないわ。

もちろん、智司もそのつもりよ。

まぁ、プロポーズとか、いずれ来る式にできる範囲で協力してやってくれって、智司を通じて私に依頼してきたのよ。
彼の弟で、かつ貴方の大事な幼なじみ、優作くんがね。」

……アイツめ。
オレに内緒でそんなことまで。