……相変わらず、素直じゃないやつ。素直になれば……今の100倍は可愛いのに。

本当はメイに何も告げずにいなくなったオレのことを心配してくれてたんだろ?
……好きな女の考えてることくらい、分かるつもりだよ?

本当は、どんな思いで、オレがこっちに来るまで待っていたのか?
それをこの後聞くことになるなんて、このときは、思いも寄らなかった。

何かのついでに鯖なんて調達しておいてくれたのは村西さんだろうか。
鯖の切り身をグリルに入れながら、考える。

あの日、幼なじみと恋愛面でちゃんと白黒つけたくて、日本に帰国した。
帰国のことは、村西さんと遠藤さんにのみ言った。
メイには直接言わず、村西さんに、彼女への手紙を手渡してもらった。

もしもメイが見送りに来てくれて、寂しいなどと言われたら、幼なじみとの三角関係はそのままに、ずっとこっちにいたかもしれない。

それは、メイを傷つけるだけだと分かっていたから、したくなかった。

かと言って、インキャンの日、あの空港で玉砕したことを伝える気にはなれなかった。

泣いてるメイじゃなくて、ちゃんといつもの顔のメイに言いたかったからだ。

……グリルを開けると、焼き魚の香ばしい匂いが漂った。昔に教わって以来だったから失敗したら笑えないなと思ったが、上手くいってくれてよかった。

……ご飯とお味噌汁に焼き魚。マグカップに粉末を入れ、お湯を注ぐ。
こんなスティック緑茶なんてあったっけ?村西さんが調達してくれたのだろうか。
バーテンダーを副業でしているので当然お酒には詳しいのだが、お酒以外のレアな飲み物にも詳しいらしい。

日本にいる幼なじみのために、美味い紅茶の銘柄でも聞いてみるか。
オレが聞くのを忘れなかったら、の話だが。

全ての配膳を終えると、一息つくために黒い革のソファーに腰を降ろした。
すると、ゆっくりリビングのドアが開いた。

黒い半袖Tシャツに、ネイビーのジャンパースカートのメイが姿を見せた。
黒い半袖Tシャツからは二の腕が見えている。

膝丈になっているので、短すぎることはない。そこは合格だ。
二の腕は見えているものの、スカートが短すぎたりするよりは大分マシだ。
外を歩いているときに欲情させるような服装でなければ合格点なのだ。

100歩譲って、オレはいい。
欲情しても、自分で処理すればいいのだ。

街中を歩く他の野郎共を欲情させるようではいけない。

可愛くて色っぽいメイを独占していいのは、オレだけだ。