ボーダー

「柏木さん、どうしてここに?」

オレは、柏木さんにそう呼びかけた。
しかし、運転している彼には聞こえていないようだった。

「村西、と名乗る男の人から連絡を貰ったの。
急いで迎えに行ってやってほしい。
そしてなるべく早くアメリカに着けるように助けてくれると助かる。って感じでね。

手が空いてるのが私と康一郎しかいなかったから、私たちが。
それにしても、デーティング期間終わって本命だ、って伝え損ねたんでしょ?
そんな子が性犯罪に遭ったんだもん。
本人もでしょうけど、蓮太郎くんも悔しいでしょ?」

志穂さんは、俺が聞いた話の意図をしっかり読み取って答えてくれる。

空間デザイナーとして頭角を表してきているだけのことはあるなぁ、と素直に感心した。

志穂さんの口ぶりからして、大体の事情は村西さんから聞いているらしい。
フルネーム、何だっけ?
……思い出した。

村西 翔平《むらにし しょうへい》。
オレと同じくFBIの人。
外交官の経験があり、もちろん英語ペラペラだから、アメリカにいる間、かなりお世話になっていた人。

空港に着いてゲートに向かうと、晋藤さんの姿が。
実は晋藤さんは、明日香さんの父からすると後輩にあたるらしい。
それは知らなかった。

「レン、搭乗手続きは俺が済ませておいたから、早く乗れ。」

「あ……ありがとうございます……」

飛行機も晋藤さんが操縦するらしい。
明日香さんの父親が勇退したから、それを継いで機長になったようだ。

こんな例はあまりないらしい。

「何かあれば連絡しろ。
力になる。
うちの弟夫婦の徹と明日香も心配していたからな。」

「気をつけてね!
こんなときだからこそ、体調崩しやすいから。
栄養のあるものちゃんと食べて、しっかり寝るのよ?」

心配してくれる柏木さんカップル。
気をつけるべきことを具体的に言ってくれるのは志穂さんが女性だからなのか。

2人とも、心配そうにオレを見守ってくれた。

飛行機内では、機内食にはほとんど手を付けずiPodで音楽を聴きながら寝ていた。

……メイ。
ハナに好きだと伝えて玉砕したから言うわけじゃない。
むしろ、玉砕して晴れ晴れとした気持ちになった自分がいた。
これで、しっかりとメイへ本命だ、と伝えられる。
その安心感のほうが、玉砕した後の気持ちを上回ったのを今でも鮮明に思い出せる。

そのメイに、気持ちを伝えられないまま、こんなことになってしまった。

悔やんでも悔やみきれない。

何をしてたんだ。
インキャンをすっぽかしてでも、メイのところに行けばよかったのだ。

何とか無事に空港に着くと、村西さんから電話がかかる。

……彼によると、今はメイの家にいるそう。
メイを助けたのも村西さんなのだという。

オレは、村西さんに身体を引っ張られるようにして車に乗せられた。
車はメイの家へと急いだ。