男に近付いて、ビデオカメラの端末と、俺がいつも持っている、エージェントルームで使う端末を繋げて、送る。

ビデオカメラの映像を解析して、奴らの身元が割れるものが映っていないか探してもらう。

さすがに、5分はかかる。

志穂がかすれた声で俺の名前を呼ぶのも気にせずに続ける。

「キサマら、コイツの服の中見たよな?
しかも、スカートの中撮影したよな?
その携帯のカメラで。
今すぐわいせつと公務執行妨害の罪で警察に連れて行ってやってもいいんだぞ?」

胸ぐらを掴まれているとは思えない、しっかりしたアルトトーンが響いた。

「撮影してたじゃない。
靴の爪先にカメラ仕込んでね。
携帯のカメラはカモフラージュ。違う?

周囲の様子をキョロキョロ窺いながらしか痴漢できない野郎が、堂々と携帯のカメラで痴漢なんてするはずない。
すぐバレるもの。

さぁ、なにか反論は?」

さすが、教師を目指していただけあって、頭は回る。

これで時間は稼げた。

「なんだ、うぜぇな!!
この女に狙いつけなきゃよかったぜ……
んで、部外者のオッサンは黙ってろっ!」

「んな大口叩いていられるのも今のうちだぞ?
俺が今持ってるカメラに、キサマらのわいせつの瞬間の動画が入ってんだよ。
なんなら、この動画をキサマらの会社に送り付けてやろうか?
"日京電力"商社に。

映像をよーく解析させたら、男のカバンから社員証のストラップが見えた。
紛失防止なんだろうが、ちゃんと見えないようにしまっとけよ。
もうひとりのやつのカバンからも資料が見えてる。
コンプライアンスがなってないぞ?」

2人の男の顔が青ざめるのと同時に、乗客のざわめきが大きくなった。
痴漢だって、最低!
男の恥ね!などと、女性客からヤジが飛んだ。

この男たちの勤めている会社は、日本国内でかなら高い売上業績を誇っている会社だ。

その会社の社員がこんなことをしたとなれば、
当然、
信用も評判も株も下がるだろう。

「社内規定違反で懲戒解雇か停職か?
それがイヤなら、大人しくここで駅員と一緒に警察を待つんだな。」

時任に頼んで近くの駅に緊急停車して、
警察に男2人の身柄を引き渡す。

志穂もどうやら、事情聴取を受けるみたいだ。

「うわっ!
だ……大丈夫?」

警察署に向かう途中、志穂がホームにへたり込んだ。
よっぽど……怖かったんだな……

「志穂、大丈夫だよ?
俺がついてるからね?」

志穂の手を取って立たせる。
この細い手のどこから、あんな合気道の技が繰り出せるんだ?
数時間前に明日香を助けた志穂と今の志穂が同一人物だとは、とても思えなかった。

胸ぐらを長い間掴まれたからなのか、少し息の荒い志穂を俺の肩に捕まらせて、歩かせる。

「時任、駅員室に連絡。
水を用意させておけ。
あとは万が一のために担架もな。」