――スタスタ

小さな足音がして、あたしは顔をあげる。

人がいるのはずっと先の方で、視力がゼロに近いあたしにはぼんやりとしか見えなかった。

向こうも見えてないらしい。

ただ、こんな廊下をうろつくなんて滅多にないから、お互い凝視してしまう。


…あれ?

男の人だ。
スラッとした手足と、小さな顔。
ミルクティーの髪がよく似合う

「く、九条先輩?」

あたしが呟くと、青年は一度こっちをマジマジと見て、すぐにクルリと方向転換した。

「え!?ちょっ」

競歩の試合か!ってくらいなめらか且つ素早い動きでもと来た道を戻っていく。

そんな風に避けられると、ムカついて逆に追い掛けてやりたくなるじゃない!


この間のことといい、今のといい、

一言文句が言ってやりたくてすでに豆粒のようになっている先輩を走って追った。


「え!?なんで追い掛けてくんの!?」

大分遠くの方で先輩は目を丸くする。

足にはそれなりに自信があるあたしは、先輩にぐんぐんと近づいて行った。