「決めた。俺、天川さんに告る。」

隣にいる阿保がそんなことほざいたものだから、つい飲んでいたココアをふいた。
あぁ勿体ねぇ、俺の120円。

「…なんの冗談だよ、勇人」
「冗談じゃねぇ!俺はマジだ!本気だ!」

うおーっ、と、椅子から立ち上がり机に足をかける勇人。

まぁ別にあの天川カレンに告るのはいい。成績優秀、容姿端麗。花が咲いたように笑い、たなびく亜麻色の髪は絹、大人しめなおっとりとした表情を際立たせるぬけるような白い肌は陶器。

まぁ、いわゆる女神だ。どんな男も虜にして夢中にして離さない、女神だ。だ、か、ら。

「…勇人。友人としての忠告だ。」
「あ?」
「諦めろ。」
「応援するからがんばれくらい言えねぇのかこの野郎。」

ぎゃいぎゃい抗議する友人を上の空へ放り投げて、教室からぬける空を見上げた。あぁ。空はこんなに青いのに。


桜庭勇人。明らかに名前負けしている青春真っ只中を間違った方向に爆走中の高校二年生。俺、三倉俊樹の多分友人。


「お前じゃ天川カレンは無理だ」
「天川さんと呼べ!」

んで、入学時から尋常じゃない人気のあった天川カレンに一目惚れした中の一人である。

天川カレンに比べ、まぁ比べるまでもないがこいつははっきり言って中の中。凡人の中の凡人。KING・OF・凡人だ。凡人ノーベル賞とかあったら歴代チャンプだってとれちゃうだろう。

「な?諦めろ。お前のは恋じゃない。芸能人への憧れだ。」

そりゃ、顔は悪くない。爽やかな黒い短髪に野球部次期キャプテン候補の運動能力。
普通に聞けばおぉ!なんと素晴らしいことか。

しかし、いかんせん頭が悪すぎる。
こいつの脳内では太陽は地球を回ってる。そんな馬鹿が、何故あの天川カレンと付き合えるのか。

「…嫌だ。俺は天川さんと手を繋いで帰りたい。」
「手なら俺が繋いでやる。だから天川カレンは諦めろ。」
「あ、ま、か、わ、さん!」

じろりと睨まれれば、言葉につまってしまうじゃないか。こいつ、前半の俺のボケをスルーしやがった。どんだけだ。

前言撤回、多分こいつの脳内では天川カレンが地球を回ってる。

「…んなこと言ってもなぁ、」
「……あなたたち、何をしているの?」