「夢」

 夢の中の少女。
 流れる金の髪、すんなり伸びた手足。
 人を魅了してやまぬ、まばゆいばかりの宝玉の瞳はそのままに。

 あと十年もすれば、そんなふうにあの姫は成長していたのだろうか。
 けれど、今は行方がしれぬ。
 いや、本気で探し出そうとはしなかった。

 焼け跡から、子どもの遺体は見つからなかった。
 幼子を抱いた侍女の姿を目撃したとの報告も受けた。
 草の根を分けても探し出せ、そう命じればあるいは見いだせたかもしれぬ。

 しかし、ヴィドーラはそう命じることが出来なかった。
 翌日にはあっさりと捜索を打ち切った。

 あの姫が、この世の者ではないと確認することが怖かったのかもしれぬ。
 どこかで生きていると、そう思いたかったのか。
 あるいはその逆なのか。

 ヴィドーラは呼び鈴に手を伸ばした。
 喉が酷く渇いていた。
 頭と体が重かった。

 やがて盆を捧げ持って入ってきたのは、側付きの小姓などではなかった。
 まだ記憶に生々しい夢が、脳裏によみがえる。
 裏切り者の騎士。

「なぜ、お前がここにいる」