一なる騎士

 アディリは冷たそうに見えて、感受性が高く繊細な娘だ。
 精霊の苦しみに心耐えかねるほどに。
 だから、無意識のうちに自分の力を閉じてしまった。

 そして、そういう自分に気づいていない。気づこうとしない。
 気づきたくないのだろう。自ら精霊の苦しみに背を向けてしまったことを。

 まだ大人ではなく、クレイドルほどに修行を積んでいない以上、しかたのないことだった。とはいえ、この少女ならば自分を許せないだろう。それほどにまた彼女は心優しい。

(アディリ、君の力は失われてなんかいないよ。でも、君は自分で気づかなければならないんだ)

 けれど、これだけは彼女は言わずにはいられなかった。

「アディリ」

 呼ぶ声にしぶしぶと彼女は青年に顔を向けた。

「何ですか」

 この子は、いまだ蕾。堅く堅くつぼんだ蕾。
 花は逆境にあえばあうほど美しく咲き誇ると言う。
 しかし、時には暖かな光が、優しい雨が必要だ。でなければ、咲かぬ前に枯れ果ててしまうだろう。

 だから、せめてこれだけは。

「辛いときは辛いと言っていいんだよ」

 虚をつかれたのか少女は一瞬泣きそうな顔をした。
 けれど、泣かなかった。
 ただ必死で耐えていた。


(一なる騎士外伝「いまだ咲かぬ花」:FIN)