「でも、今日から毎日、君はここに通わなくてはならないんだよ。それとも『封の館』に住み込むかい?」

 アディリと呼ばれた少女は無言のままぶんぶんと首を横に振った。細いお下げが彼女の薄い両肩を打つ。

「そうだね、あそこでは精霊の声どころか、気配すら感じられなくなる。精霊使いは居心地が悪いからね」

 精霊使い。
 自然界を司る六種の荒ぶる魂。

 水と風と土と光と火、そして生命。
 常人の目に見えぬ精霊を、自在に操るもの。

 そして、彼女の目の前に立つ青年は、年若くともその精霊使いの頂点に立つもの。
 精霊使いの長クレイドルであった。

 彼らの登る坂の先には、白亜の邸宅がある。
『封の館』と呼ばれるそこは、精霊使いたちが何世代もかけて作った結界に守られている。この中には精霊たちは近づけない。

『精霊の愛し子』と呼ばれる子どもたち。
 生まれながらに精霊に愛され、その守護を受けるものたち。

 けれど、同時にあまりにも精霊との同調が強いため、彼らに悪戯されたり、あるいは他に危害が及んだりすることがままある。ときには命を失うことも。

 ゆえに『精霊の愛し子』たちは、精霊使いとして最低限の技能を獲得し、他人や自分に危害が及ぶ心配がなくなるまでのあいだ『封の館』で過ごさざるはえない。

 そして、今そこには『大地の王』の幼い姫が逗留していた。アディリは彼女の教師として『封の館』に向かっていたのだった。