『大地の王』が最期になしたこと。

 あれは、まさしく死の呪い。

 確かに今はほんの小さな歪みでしかない。

 しかし、歪みは気の流れを確実に呼び込んでいる。

 呼び込まれた気の流れはさらに、多くの<気>を呼び込むだろう。
 気の流れとは、命を育む力。

 やがてこの世界すべての<気>が飲み込まれるとき、世界は死に絶えるのだ。

 次代の王が『大地』の豊穣を望まぬ限り。
 呼び込まれる<気>を開放しない限り。

 しかし、『一なる騎士』たるリュイスには次の王を見つけられはしないだろう。
 彼が真の主にと切望した幼き姫は、もうこの『大地』には存在してはいない。

 世界は滅びる。

「あんまり心配しすぎると禿げるぞ」

 呆れたような声を出してエイクは、クレイドルの頭を上からぐしゃぐしゃにかき回した。容赦なく。

「や、やめてください」

 抗議の声を上げてエイクを睨み上げると、真摯な灰色の眼差しに出会った。

「らしくない悲観主義はやめることだね。あのリュイス君だってあきらめてしまったわけではないだろうに。とりあえずまだ世界は終わってなどいないし、滅びの未来とやらが決定してしまったわけでもない。まっ、世界は白紙に戻っただけというところだろ、女神が干渉する前のね」

「まったく、貴方という人は能天気にもほどがある」

 エイクを軽く非難しながらも、クレイドルは苦笑交じりに呟いた。

「世界はまだ終っていない、か」

 生きている限り、出来ることはある。

 あきらめるにはまだ早過ぎるのだ。


               (FIN)