一なる騎士

 クレイドルがほっとしたようにため息をつくのが聞えた。彼は時間稼ぎをしていたのだろう。

 栗色の長い髪をなびかせて、サーナが駆けて来る。息せきって一生懸命に。

 それはあの晩を、姫が生まれた晩を思い出させた。あの時も彼女はあんなふうに一生懸命に自分を探して駆けていたのではなかったか。

 しかし、あれから四年経つ。自分はもう見習い騎士ではなく、サーナも王宮慣れしないがさつな少女ではない。今や立派な淑女だった。
 
「サーナ? どうして君がここに、いや愚問か。君が連れてきたんだな、セラスヴァティー姫を」

 敢えてリュイスは冷たい言葉を選ぶ。彼女に落ち度があったわけでないことなどとっくに承知していた。

「リュイス様……、違います。私が連れてきたわけじゃありません。私は……」

 あんまりなリュイスの言いようにサーナが口ごもる。横合いからクレイドルが助け舟を出した。

「リュイス、サーナは姫を追ってきたんです。彼女を責めるのは筋違いですよ。責められるとしたら、あの子の力を甘く見ていた僕でしょう」

 いつもの彼らしくもなく苦渋に満ちた声だった。しかし、リュイスはクレイドルにまで気を使う余裕はなかった。サーナにどうしても言っておかなくてはならないことがあった。

「今更どちらでもいいことだ。サーナ、君にひとつ言っておく」

「はい?」

「すまないが約束はなかったことにしてくれ」