一なる騎士

「しかし、剣は、大地の剣はどうするのですか」

「姫が先だ。王が死んだ以上、選ぶべき王がいないでは話にならない。王宮があの状態だ。それに今やあの剣に触れるのは『一なる騎士』である私だけだ。しばらくなら放置しておいても差し支えないだろう」

「待ってください。せめて怪我の手当を」

 いつもより血の気を失った顔色と、どこか危なげな足取りを宵闇の中とはいえクレイドルは見逃さなかった。

「さすがに目敏いな。アスタート相手では無傷というわけにもいかなかった。だが、こんな傷はたいしたことはない。それよりも姫君を見つけなければ、一刻も早く」

 アスタートとの決闘の後、息つくまもなくリュイスは王城に攻め上った。痛みを感じている間などなかった。

 いや、痛みなど感じなかった。

 あのときまでまがりなりにも女神の力は彼のもとにあったから。

 そう戦女神ナクシャーの力は、あの時あの瞬間、セラスヴァティー姫の新緑の瞳に出会った時に、風に吹き消される蝋燭の炎のようにあっさりと吹き飛んでしまっていた。

 もう今は何も感じない。
 あれほどに近しく感じたと言うのに。

 しかし、そんな力に囚われてしまった自分を後悔しこそすれ、惜しいとはまったく思わなかった。

「しかし」

「リュイス様!」

 その時だった。遠くから声がかけられる。懐かしい声が。