一なる騎士

「セ、セラスヴァティー様!」

 王が自害しようが無抵抗な王妃と王子を手にかけようが、動かなかった心。
 いや、感情が麻痺してしまっていることすら自分で気づいていなかった。

 それが一気に解き放たれる。

 自分は一体何をしていたのだ。
 何をいまだ幼き姫に見せてしまったのか。

(なぜ、なぜ、こんなところに?)

 姫は精霊使いたちの結界に守られて、遠く離れた精霊都市にいるはずである。
 こんなところにいるはずはない。

(これは幻なのか……、いや)

『一なる騎士』たるリュイスが己の主と定めたものを見紛うはずはなかった。 

 彼はセラスヴァティー姫に向かって手を伸ばしかける。
 とにかくこんな血なまぐさい場所においてはいけないとそれだけを考えて。

 しかし、姫は身を引いた。小さな白い顔に、恐怖と混乱を貼り付けて。

 あきらかにリュイスを拒絶して。

 無理もなかった。
 自分は姫にとって父王を自殺に追いやった上、母君と王子方を殺したものだ。

 血塗られた彼にはもう彼の主に触れる資格はない。
 差し伸べた手を止めた瞬間だった。
 がっしゃんと激しい音がした。