一なる騎士

 命が失われ、ただの物体となってしまった遺骸には何の感慨もなかった。

 リュイスは王の胸に突き刺さったままの剣をとろうと、歩を進める。血溜りの中に足を踏み入れることも厭わずに。

 だが、その手が触れるか触れないかのうちだった。
 じゅっと音を立てて灼熱の炎が剣から弾けとんだ。
 彼を拒絶するかのように。

 リュイスは思わず手をひいた。
 その時だった。

 みしりと建物が軋んだ。
 激しい震動が広間を襲った。

 たちまちのうちに天井に壁に柱に、そして大理石の床すらにひびが入る。
 天井から漆喰が崩れ、埃が舞い落ちてくる。

 柱からランプが落下し、火の手が上がる。倒壊の危険を察した人々はざわめき、『王の間』から退去しだした。

 大地の剣から今だ飛び散る炎が、彼らをさらに追い立てる。

 けれど、リュイスは動かなかった。
 いや、動けなかったのだ。

 見つけてしまったのだ。

 綴れ織りに隠れるように見つめていた瞳を。
 輝かしい新緑の瞳を。

 冷や水を浴びせられるとはこのことだった。