そんな言葉を聞こうとは思わなかった。

 実直で清廉な若いリュイス、しかしそれゆえに世事には疎い。
 よりによってそんな彼に笑顔の正体を示唆されるとは思ってもいなかった。

(違う、やはり違う)

 思わずリュイスを凝視したときだった。
 突然、朝食の間の両開きの扉が大きな音を立てて盛大に開いた。

「やあ、おはよう」

 目に異様なまでに痛い色彩の物体が、にこやかに笑った。

 セイファータ公爵の嫡子であり、リュイスの義理の兄エイクであった。

 白いぴらぴらの襞つきのシャツにやたら膨らんだズボンは黒。珍しくも服の色自体は地味なのに、意匠はやたら派手である。さらに長靴は真っ赤。そして何よりも奇矯なのは、あまりに膨大な量の装飾品を身に付けていることである。

 重そうな耳飾はもとより、何重にも巻きつけられた首飾りに腕輪。腰に巻いた皮細工のベルトには色硝子が埋め込まれている。一歩歩くたびにじゃらじゃらと音がする始末である。差し詰め今日の彼の衣装の主題は、宝石箱といったところだろう。

 ちらりとリュイスを見ると、かすかに目を見開いただけで淡々と挨拶を返している。もう彼の異様な風体にも大概慣れたということだろうか。