右手を突き出しラッパーのように上下させる結衣の仕種がおかしくて、

四歩分ゆっくり近付く里緒菜は笑いを堪えるのに必死だった。


メイクに失敗した過剰にピンク色のホッペをした少女に突然話しかけられた少年は淡く笑う。

市井の笑顔はふにゃりとした印象で、壊れやすいポルボロンのようだ。


「全然。どんだけか弱いの俺。平気だよ。ね? 洋平」

最近よく視界に入る女子生徒をちらりと見てから、学年のアイドルは自分の横にいる近藤に話を振った。


「は?、……ああ、うん、って俺関係ないからお前の怪我とか知りませんけど。まあ、あれだ、命に支障ないな」

無関係な話題を提供される意味が分からず少し戸惑った近藤は曖昧に頷くと、

「行こう」と、教室へ顎を突き出す。

横に長い目が、ふっくらとした涙袋が、二重の溝が、その芯が強そうな瞳が好きだった。


「あっそう、えへ良かった、えへへあはっ、はは……、は」

ひきつり笑いの会話にならない会話は話した事実でもあるけれど、

社交辞令の方がマシだと思う。


  行っちゃった

  ……てか、なんかイマイチ、?

結衣の足は動かない。
ガムなんて踏んでいないのに、スリッパが廊下とくっついてしまったみたいに、

どうしてか身動きとれなかった。


「頑張ったじゃん結衣、十円あげるよ」

「は、十円? 一円でしょ、ふ、だって……なんか反応、悪くない? 一円だよ。リアクション薄いって、ねぇ」

「はいはい、ぐだぐだ悩むより浮かれたらいいんだって。市井に感謝したらいいんだって」


「、んー……」

いまいち手応えがなかったと不満に思う少女。

だが、それは当たり前かもしれない。

なぜなら、結衣はコネで第二段階のバッチを手に入れただけなのだから、

甘い目で見て顔見知りと呼べるその程度の立ち位置なのだし、欲張りになるのは間違いだ。


とはいえ、ムっとしてしまうのは、彼女が恋愛初心者のせいで、

実力がない癖に、結果が欲しくて堪らない浅ましさが次に頑張れる力となる。

ハングリー精神が伸び率に比例すれば幸いなのだけれど、

怠惰な彼女はクラスメートのように女子高生らしく、恋に友情に一生懸命になれるのだろうか。