「はい」
「わりぃ、ありがと」
「、うん!」
……
……。
うそ、
嘘ウソウソうそー何、!嘘、嘘だ!
ピンポン球を渡したのは不意打ちの近藤。
いつの間に彼は卓球をしていたのだろうか。
奥との会話に夢中で気付かなかったらしい。
あれだけ目の保養ができると思っていたのに、彼の勇姿を観察する本来の目的を忘れていたではないか。
――好きな人にピン球を渡した――
淡い気持ちがぷくぷくと心の中で跳ねていく。手先が熱い気がした。
揚げたてのドーナツに紛糖を振るったのは、好きな人の甘い声。
「卓球、……してる」
「うん?、そりゃそーじゃん。なに、結衣ちゃん。ウケんね」
脈絡のない話に、奥は不思議ちゃんキャラを狙うのかと結衣に笑ってツッコミを入れてみせた。
しかし恋の熱におかされている当人は「……楽しそうだね」と、ぼんやりと答えるしかできなかった。
持っていたラケットをクルクルと回す。コートの赤い枠のシールの上でクルクル踊る。
バレリーナみたいに軸がぶれずに綺麗に舞う。
片足の兵隊さんが恋をする――あの悲しいエンディングを、自分なら明るく終わらせられるだろうか。
もうだめだ
こんな細々より早く仲良くなりたいよ
ありがとうに、“うん”って言っちゃうようなキャラは嫌
……変わりたい、
もっと、なんか、なんか、
淡い恋心はピン球のように高く跳ねられるはずだ。
黙っているだけで想いが通じる奇跡は、一般人にはなかなか訪れない。
努力をしないと、男の子に好かれる女の子にはなれない。
見ているだけ片思いをしているだけ、それで満足できないから今こうしてもどかしさを抱えているのだ。
愛美が居て、里緒菜が居て、頑張りたい自分が居る。
国語でなんとなく習った三人寄れば文殊の知恵ということわざだって覚えている。
つまり、今の状況だって諦めないならば飛び越えられるはずだ。
雨が降ったから接点が生まれた。だとすれば卓球をサボったことは必然だった。
ほら、頭を脳天気にすれば、なんでもロマンチックに繋がるのが都合が良い純愛だ。



