けれど自分がその丸い枠の中に居たのは、ほんの四秒足らずで、
こちらを見ていた視線は徐々に窓の外へと移されてしまっていた。
春には緑がよく似合うも、今は枯木のてっぺんが寒空にかすかにかかっているだけだ。
ここは三階なのだから窓の奥に何もない。
二年生の校舎があるだけなのだから、わざわざ眺める必要は何もない。
だったらなぜ彼は目を逸らすのか――
「……、」
結衣の気持ちとは正反対で、顔に貼付けた営業スマイルを剥がせない。
笑い方が変だったのだろうか。
気持ち悪い女だと引かれたのだろうか。
感傷に耽る少女の心のように、冷たい風に煽られる木々。
自分がちっとも興味を注がれない景色を愉しむなんて、少年の胸中は嫌な方向にしか考えられない。
不安になり近藤から視線を外すと、にこりと自分に微笑んでいる市井と目が合った。
ふっくらとした柔らかい笑顔は、ショートブレッドみたいだと思った。
簡単だから結衣はよく作る。
材料を適当に混ぜて生地を伸ばしたら深く考えずに包丁でカットし、
フォークで表面に模様を付けてやる作業が図工みたいで楽しくて、
焼いてしまえばあっという間に完成。
さくさくしていて、素朴な美味しさは病み付きになるし、バターの風味が牛乳に良くマッチして、
とにかくまた食べたくなる。
市井の笑い顔が似ているのは、丁寧に扱わないと壊れてしまう繊細さがあるためだろう。
魔性だよ
どこか意味ありげに彼の唇が非対称につり上がっていたが、
そういう伏線には都合よく気付けないので結衣には分からない。
意中の人よりも隣にいる友人の方が、アプローチに先に気付くことが多い。
これは本当に現実の世界でよくあることである。
けれど愛美も里緒菜ももちろん結衣も、まさか市井が何かに勘付いているとは思わなかった。
なぜなら、彼女たち三人の偶然奇遇作戦は完璧だと信じているからで、
後々、彼こそが結衣と近藤の恋の行く末を大きく左右するなんて、
そんな展開は誰も予想してはいなかったし、普通は察知できない。
これは幸せの予兆?
不幸への前フリ?
――果たして、三流の彼女の場合はどちらになるのだろうか。



