白い文字と赤い波線で緑色の黒板は埋まっていく。
刻まれる文字は左から右へと意味を作っていく。
生徒たちも一生懸命シャープペンシルを動かしていく。
その流れを無視して携帯電話に弄ばれるのが、現役高校生らしさと言えるはずだ。
《ぽこりんは?》という里緒菜に、《やだメタボっぽい。近藤要素ないじゃん》と、結衣は返信した。
マナーモードはバイブがうるさいので、結局サイレント仕様の役割を果たしていないようだと思いつつ、
液晶画面を追った彼女が、小さく「え」と声を漏らした。
そこには、近藤のあだ名はぽこりんに決定した報告と、絶対にバレないからという理由と、
愛美にもぽこりんと伝えると記されていたためだ。
リアルにぽこりん?!
やだ、変じゃん
普通にダサいって
返事を打たずに直接里緒菜の席を見ると、こちらに向けてにっこり笑う友人がいて、
それはそれはプリクラを撮る時の詐欺笑顔よりも美しかったとかなんとか。
結衣一人では諦めてしまうけれど、一緒になって頑張ってくれる人がいるなら頑張れる今、
いつかの未来にお礼がしたい。
そのためにも付き合わなきゃ
頑張ろ
せっかく協力してくれてんだし
頼ってばかりではなく、たまには自分なりに奮闘したい。
なので結衣は廊下側の曇りガラスの窓を拳三つ分、こっそり二十センチほど開け、
隙間からいつでも近藤を探せるようにと、
ストーカー検定があれば勉強は得意ではないが、片思い少女は最高得点で受かる自信があった。
ただの廊下も毎日好きな人が歩いていると思えば特別な道となるミステリー。
もはや先生の動向に注目していない結衣は、星空を眺める乙女のように頬杖をつき、
彼が現れたらキラキラ光り出す空間に意識を集中させていた。
見れるかな
目、合うかな
夢うつつな少女は早く休み時間にならないかと待ち遠しく思っていた。
手、降りたいな
お気に入りのピアスを撫でる時間が女子高生っぽくて結衣は好きだ。
これが小学生なら真面目な生徒が、『先生田上さんがサボってます』と注意するのだろうが、
高校生はクラスメートに放任主義がベターだ。



