ふわふわした足は安定感がなく、歩いているのに浮いているみたいだ。

友人三人が歩く後ろを、好きな人と二人……いや、彼氏と二人進む。


  っ、話せないよ

緊張のあまり薄い水色をしたジャケットの裾を結衣は一生懸命に握りしめる。


せっかく作戦を通して冗談混じりな懇話ができていたのに、

また振り出しに戻ったかのようで、会話の一言目がちっとも浮かばない。


  なんかないっけ

  昨日TV見たっけ

  何話そ、どしよ沈黙やだ

こんなことなら気を遣ってもらわずに、五人で並べば良かった。

そうしたら愛美が話題を提供してくれただろうし、

里緒菜が絶妙なタイミングで相槌を打ってくれただろうし、

市井が笑いながら時折結衣か近藤に話を振ってくれただろうに。


二人きりになるとたちまち初心者モード、誰か切り替えスイッチを押してほしい。


  、……

視線を感じ、隣を見ると近藤と目が合った。

彼女の特権は、彼氏の視線を集めることかもしれないと、乙女チックなことを呑気に思った。



「なんかそれ、一緒に踊って、?」


相変わらず首の後ろを痺れさせる声色をさせて、少し照れ臭そうに近藤は囁く。



言葉が出ない時にスカートの裾を掴みふわりと広げるのは結衣の癖だ。


バレンタインのケーキを作っている時のように、細められた彼の瞳がとびきり甘ったるいのは何故。


結衣がこくんと頷くと、近藤は一瞬眉を持ち上げ、それから柔らかく微笑んだ。


「んー、ふわふわしてて可憐、気立てが良くて清楚? ……ウケる、何だったっけ、遊び……心?、印象的。

すんごい甘い香り、チョコよりはパフェみたいだなって。

蕾のままでいてって、つまりお子様のままでってことだよな?」


人の出入りが激しい駅前は賑やかで、レンタカーショップやコンビニ、

コーヒーショップが目立ち、お客さんを引き留める。


日だまりの粒に満ちた風は暖かく、ホワイトデーという日を優しく包んでくれる。


ある店頭には、ワンコインで人気のブーケコーナーの隣に、

春を予感させる真っ赤なチューリップが並んでいる。


――そして、二人は見付けてしまった。

お姫様のドレスを。