揺らぐ幻影


いつの日かのメール、『避けられてるのかと――』、一文が頭を過ぎる。

どうやらあれはストレートな意志表明だったらしい。

裏をかいて、結衣は近藤に避けてくれと注意されているのだとばかり思っていたではないか。


けれど、明らかにバレンタインデーに告白したのだから、

市井を好きだなんて勘違いをするとは意外だった。


しかし結衣は悟る。

マシュマロの袋は子供じみたクマのイラスト。

きっとオシャレな近藤ならば、女の子が喜びそうなケーキショップは知っていただろうし、

それこそセンスが良いのだから、デザイン性に富んだラッピングのお菓子を選んだはずだ。


それを、こんなクレヨンで園児が塗ったピンク色をした可愛いだけの品をわざわざ選んでくれたのだ。


  勘違い、は私……

嫉妬で見えていなかったのかもしれない。
彼の優しさを見失っていたのかもしれない。


頭が良くない結衣は、算数の仕事量問題が苦手だった。

例えば、『書類を整理するのにA君一人だと八時間かかり、B君一人だと六時間半かかります。

では二人が一緒に作業をすると、何時間何分で終わるでしょう』といったもの。

そんな難しい推理はできなかった。


けれど、彼の優しさ。

よく考えたら、近藤は楽しみにしていた飲み会中にわざわざトイレでメールを返してくれた訳で、

急いでいたから誤字があった訳で、

いつもどこかに煉瓦色の髪を見つけることができたのは何故?


そう、算数の推測は苦手な結衣でも分かる。


つまり――

  ……どしよ

嬉しくて楽しくてマシュマロにキスしたくなる。

幸せ絶頂の結衣とは反対に、近藤はどぎまぎしていた。


「、は。なんで静香ちゃん? は、何、それ」

どんどんウサギが形を変える。
好きな人が動揺する分を目で見られるなんて面白い。


ああ、もう、ずっと前から結構好かれていたらしい。


それでも、だったら近藤からメールをくれたって良かったはずだ。

放置して何もしてくれなかった。

流行歌を『良いよねー』と感動する女子高生ばりに、結衣は切なかったのだ。


少しだけ悪戯心が芽生え、「振られると思った」と、いくらか大袈裟に強弱をつけ言ってみる。