揺らぐ幻影


馬鹿だと思った。

静香と近藤が一緒に登校していたあの日の朝、

関係ないと言われて本当に結衣は泣きたかった。辛かった。


今になると、彼の口癖を少し憎らしく思う半面、なんだか笑えた。

同じ言葉も心の状況が違うと、涙の代わりに笑顔を生むらしい。


愛美と里緒菜は誇りだ。
いつも笑っていて、いつも元気にしてくれる。

田上結衣で生まれて良かったと自慢せずにはいられない。



「俺、今日振られると思ってた」

にっこりとした笑顔を捨て口角が引き締まった真面目な表情、至って近藤は真剣な様子だが、

ありえないことを言うので、結衣は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。


「なんで?!」

裏返ったそれは思いの外大きくて、耳を塞ぎたいくらいに煩く彼女に返ってくる。

この反応一つで少女がどれだけ彼を好きだったのか、

馴れ初めを知らない他人にだって分かるはずである。


  ばりばり好きなのに

一体どう勘違いすればそのようなシナリオになるのか意味不明で、

少年の首にぶら下がっているウサギに注目していた。


両手でぎゅっとマシュマロを握る。

虹色のスプリングやシャボン玉、紙風船、青春アイテム多数が蘇ってきた。


「なんか避けてなかった? リアルに焦ったんだけど……俺嫌われたかなーとか。はは。結構メソメソだったんだけど。

なんか田上さん雅と仲良いし? 雅と良い感じ、とか……チキン、はは。竜田揚げ」


近藤の声が好き。

皮膚に溶けて血管を撫でるような音色は甘く、結衣はいつだって聞き惚れてしまう。

お財布に添えられた骨張った指先が、ウサギの表情を切なそうに歪ませた。


  なんで?

「市井? なんで? 市井とかないよ、市井なんか好きじゃないし。自分こそ静香ちゃんと……!」


動揺しているため、君付けを忘れているし、好きな人の友人に割と失礼な物言いをしている結衣、

なんだか非常に市井の立場が気の毒だが、彼は終始幸せそうに新製品の恋人たちを眺めていた。


セルクルで抜き取ったガレットのように真ん丸な太陽、

デコレーションケーキに飾る飴細工のオーナメントのように不揃いな雲、

恋愛をしていると、地球の自然さえ美味しく感じる不思議。