揺らぐ幻影


大好きな近藤に幼稚なマシュマロをそっと渡され、結衣は静かに受け取った。

これはきっと彼の恋心――食べた瞬間、完全に離せなくなる。

バレンタインに彼女が贈った真心は既に彼の物、

何かをプレゼントする行為を尊いと思ったのは初めてだ。



「でもマシュマロって義理、」

嬉しさ半分、疑問を口にしてみた。


「――は、そうな……? え、そんな掟知ら、え、普通にごめん、俺クマクマクマって……やばいな凡ミス。出オチだった?!」

マシュマロの意味を知らないらしく焦る近藤の様子さえ愛しくて、

どんどん好きな気持ちが増えていく。


  可愛い、

  近藤くんって可愛い

パッケージのクマのイラスト。

小さく結衣が「クマ?」と零すと、近藤はふわりと甘く笑う。

現代版の魔法使い、彼の正体は恋の妖精さん?


「田上さんそのクマ好きだろ? ほら、車とかお弁当箱とかそのクマだったし」

こんなことを平然と言うなら罪だ。

  、うわっ

  なんなのこれ

ときめきとはこのことなのかと改めて実感する。

好きな人に好かれることは、なんて幸せなんだろうか。

不謹慎だけれど、今の結衣なら幸福過ぎて死ねる。


「ありがと」

空気を含んだマシュマロは軽いはずなのに、重厚感があるのは何故。

嬉しさが最上級になると泣きたくなってしまうし、好き過ぎると困る。


惚けている結衣の耳に入った違うと言う市井の言葉は、

やめろと喚く近藤の声を更に掻き消した。


「お返しどうしよーって質問攻め。普通に迷惑だったよ。

クッキーよりキャンディよりチョコより田上さんって色白だからマシュマロって感じだよなーとかね?

洋平キモイこと言ってたよ。それ探してお店ハシゴしたらしいよ?」


悪戯に笑う市井と真っ赤な耳の近藤、ホッペを赤く染める結衣、

おいしい展開は不意打ちで、にやけっ面がごまかせない。


「バラすとかないわー、雅関係ないだろ。俺カッコ悪、パパなら息子をヨイショしろや」と、

悪態付く近藤はまるで子供で微笑ましい。


『関係ない』
それは今更、彼の口癖なのだと気付く。

メールでも話す時でも、そういえばよく耳にしていたフレーズだった。