揺らぐ幻影


やはり近藤洋平は策士だった。
計算高く術計に優れ術策に富んで、罠を仕掛けるのが上手、

彼を小悪魔に認定しよう、結衣はそんなことを考えていた。


だって聞いて。
近藤の薄っぺらい中身が結衣の理想そのものなのだ。


例えば海辺、例えば真夜中、例えば星空の下、例えば母校、

とにかく最適なシチュエーションに二人が居たとして、

深い話、親密な内容、秘め事、過去や昔、愛や将来、誰にも言わないことをお前だからと打ち明けて語るべき?

分かっている、支え合い補い合い高め合う二人に感動するのだと。


ただ、どうしてか結衣はそれが無理な女の子だった。

本人も上手く説明ができないけれど、とにかく苦手で語らないでほしくて、

言葉にしなくても通じる関係を築きたい派だ。

黙りの美学を信じたい。


例えば結衣が主役で陰ある彼の内にしこりがあったとしても、

それを悟りつつも、それにはあえて触れないことを貫きたい。

そんな恋人がいたっていいのではないだろうか。


だって結衣がいくら真剣に喋ろうが、やっぱり結衣は結衣だから重みがない。


よって、近藤洋平の言葉は軽いからこそ、結衣には凄く響いた。

半笑いでふざけて話す彼にますます惹かれた。

だって瞳は嘘をつけない、真面目な色をしているため大丈夫、もう十分に結衣の中で名台詞のとれ高はあった。

それさえ彼には教えないけれど。


頷いた結衣に微笑む近藤はエスパーなのだろうか。
好きになって良かったと実感ばかりさせる。


「あはは、まあ……うん、ね。暇な日とかにダラダラあの時ああだった〜って答え合わせしよ?

以上、近藤洋平十六歳による愉快で一方的な告白でした。お気に召しました? お姫様」


これは反則。これは卑怯。
もう最高に幸せだ。

純粋でない結衣はこんな近藤だから好きだ。


好意がある相手には笑顔になってほしい深層が働き、彼は常にオチがある話をするよう気をつけている。

近藤は結衣の笑い顔を見たいからだ。


ウケを狙うような日常会話が好き、だって面白い。

どうしてだろう、どうしてこんなに気が合うのだろう。

近藤のお喋りに結衣が笑えば、近藤が笑顔になり結衣が更に笑い――この連鎖こそ夢だった。