揺らぐ幻影


「友達が頑張ってくれただけー……みたいな。あはは青春。だから、私……、なんもしてない、だめ女。はは」


甘えたで姑息な性格なんて嫌がられると思ったのに、予想に反して近藤は可笑しそうに肩を揺らす。



そして、


「なー、出てきてよ」


彼がそう言った瞬間、消火器の辺りから現れたのは、

「おめでと、両思い」

相変わらず柔らかい表情の市井雅だった。

春物のスタジャンにただのデニム、母親ウケが良さそうなシンプルな私服だと、

結衣はしばらくの間ぼんやりと見物していた。


どうして市井が居るのかといった顔を向けると、近藤は手持ち無沙汰に後ろ髪をひっぱりつつ暴露する。

「未成年の僕は不安だから保護者に付き添いを頼みました」

照れ隠しに冗談を口にする少年が、

地面に転がっていたウサギのお財布を拾い自分の首にぶら下げ、

「似合う?」と、悪戯に笑う姿は可愛くて子供みたいだ。


彼は大人だと尊敬していたが、告白に友人を連れてくるなんてアリかナシで答えれば普通はナシだ。


「あはは、ウケる引く、ネタ?、あはは、なに」

きっと他者にとって、結衣のツボが謎でしかないのだろうけれど、もう嵌まってしまう。


楽しそうな声が響き渡るバスターミナルの一角には五人の高校生、

青春という名前の笑いがあるなら、今 正にその最中だ。


近藤がウサギをパペットに見立て、

「好きでいていいのー?」と、裏声を出して尋ねてくる。

ああ、だから、こんな風にユニークな人だなんて近付くまで知らなかった。

一秒経つと、一つ好きが増えるばかり。


聞かないけれど、正解。
紙芝居の話は小ネタではなく本当だったのではないだろうか。

弟が幼い頃、紙芝居を読んであげていた優しいお兄ちゃんなのではないだろうか。

きっと、そうなんだと思うし、そうであってほしい。


結衣が「うん」と頷けば、近藤が微笑む。

ああ、自分が誰かを好きになることで、誰かが笑顔になるなんて初めて知った。

また自分が恋をすることで、相手が喜んでくれるなんて初めて知った。

このように、両思いになることで、お互いが幸せになるなんて初めて知った。
勉強は苦手だが、恋の発見は得意かもしれない。