揺らぐ幻影


  ……、

立ち尽くす結衣は遠慮がちに近藤を見つめた。

二重の線は目頭が強く目尻に向かって幅が狭くなっている。

すっとした鼻に毛穴なんてなくて、高く綺麗な形をしている。


今、観察をするのはおかしいと分かっているのに、

カッコイイと呑気に見惚れるのは、やはり現実逃避に値するのだろうか。



ほんの少し眉間に皺を寄せ、先程よりもお腹に力の入った音で近藤は言った。


「好きです、付き合ってください。凡人から彼氏に昇格させてください社長」


純愛らしい名言は結衣の価値観だとお蔵入りなので、どうやら彼は彼女に取り入ることを成功したらしい。


ずっとずっと言われたかった言葉。一番大好きな人。

ココアに浮かべたマシュマロが熱にとろけるように、

大切な男子の声に包まれた女子は輪郭をなくしてしまいそう。


  ――は、

  好き、って、……?

  は、私


ありえないと思った。


冷静に考えてみよう、結衣は近藤の周りに居る子らよりも可愛くないし、スタイルだって良くない、

センス皆無だし、一人で何も出来ないですぐ凹みすぐ泣くし、田上結衣はとっても子供だ。

ありえないと思った。


「ちが私がぽこりん好きで私が……! ぽこりんを、が? 何、す、き? ……冗談」

可愛いキメ顔を作る余裕がなく、上目遣いの計算をする隙もなく、

すっとぼけた顔面で結衣は無意識に怒鳴っていた。


掴んだままのジャケットを引っ張ると、自然にふわりと裾が膨らむ。

確か子供の頃はスカートの前を持ち上げて、そこにたくさんのお菓子を乗せ運んでいた。

今ジャケットを脱いで、ドレープを広げ愛の言葉を受け止めてみたい。


  いや好きにならないでしょ

  私を嫌いなんでしょ?

まさか近藤が嘘を言っているようには見えないが、結衣には信じられない。

困惑中の彼女とは正反対、彼はキラッキラな笑顔を作る。

人間は発光するのだろうか、皆が振り返るような輝く姿が眩しい。


「はは、俺が好きなんだけど。何、ぽこりんって、ふ、俺? やだな変なあだ名、ははっダセェ」

可笑しそうに肩を揺らす近藤洋平を笑わせたのは田上結衣、

それだけはない頭でも理解できた。