暗めな髪、やや白い肌、気持ち持ち上がった丸い瞳、
柔らかめな中に凛とした強さのある雰囲気、
低くて甘い声は割と冗談が得意、デザインの勉強に熱心、
大きな手、結衣が好きな人。
無意識にジャケットの裾を握りしめていた。
好き
ニ文字の言葉を込めて、二つの鏡を見つめてみる。
澄んでいる空気はまるで小学生の時に家族旅行で目にした滝のよう、
主人公がピンチになるSF映画では、たいてい激流の裏側に実は隠し扉がある。
そんな秘密の世界へ繋がるように、
結衣が生活する物語を、近藤が筆をとり新展開に導けばいい。
好きな人が映画を読むなら、口先だけでも情景が鮮明に浮かぶはずだ。
彼の歴史に自分の名前が刻められたらいいのに。
目が合うのは、結衣が見ていて、近藤に見られている仕組みだ。
「俺、多分、前から田上さん好きだった。なんか。ふ、この状況が謎?、ウケる、はは、なんか知らない間に好きなんですけど、はは。
バレンタイン告白?されて。んー、やっぱちゃんと好きって、自覚、あはは」
止まったままの脳みそには分析力が不足中、予想外の言葉を呆然と聞き流していた。
それは、英語の仮定法過去の文法が分からなくて、勉強が嫌いな結衣にしては珍しく先生に質問をしたら、
教科書を暗記しろと言われた時くらい意味不明だった。
笑いながら告白をされた。
紛れもなく、近藤が好きだと誓ってくれたのに、
結衣の耳は聞いているようで意味までをもは聞き取れていなかった。
だから、好きな人が話す音の元を見つめるだけで精一杯だった。
自分とは違う形の唇が、なぜか幸せの魔法をかける呪文を唱える不思議。
「暗記しといて。田上さんに告白される前から俺ばりばり好きだったから。これ重要、はは。
前から乙女らしく恋しちゃってました……って、あはは、ふざけすぎ?
はは、ここはイケメン真似てハンサムに語りゃあ男前なのに失敗だな俺。あはは。
まあ、うん、なんかまあ。……なあ田上さん、俺さ?、やっぱ俺、今日もっと好きになった」
シクラメンのように染まる近藤のホッペは、無言で愛を物語る。
寄り添う老夫婦のような真実の愛なんて知らないけれど、
多分、大丈夫だ。



