行こうと一言、ゆっくりと歩き出した近藤に連なる結衣は一度目を強く瞑った。
バレンタインの場所に向かうのだろう。
決断が下されるまで、あと三メートル。
――このままがいい
好きで、好きで、片思いは相手の気持ちが分からないからこそ頑張ることができた。
これから結衣と彼の未来どうなるのだろうか。
付き合って下さいと言われたいけれど、振られたらどうしようと不安になる。
明日からは失恋ライフの幕開けなのだろうか。
振られたくないけれど、なんだか振られる気がする。
好かれたいけれど、ちっとも好かれていない気がする。
返事を聞くのが怖い。
恋に気付いて、ずっと疑問だった。
どうやったら付き合えるの?
だから愛美と里緒菜に相談した。アルバイト先の先輩に助言を貰った。
彼女にして!
だから頑張って近藤に近づいた。市井が励ましてくれた。奥に手伝ってもらった。
私たちの関係って何?
だから静香に嫉妬した。友人に八つ当たりした。近藤が嫌になった。
好きか、好かれないか。
彼女になれるか、なれないか。
いっそこのままの曖昧な関係で、一方的にこちらが好意を寄せるだけの距離感が案外幸せなのかもしれない。
そう、片思いならば、自分のさじ加減の空想だけで甘い夢をやっていける。
考えるのが怖いなら、もうこのまま逃げてしまいたい。
お花畑に大きな布を敷いて、動物さんたちと楽しくお茶会をしていたい。
そっとポッケに手を入れた。
指先に馴染むのは、ウサギのお財布。
本当はバレンタインの日も、これをポッケに忍ばせていた。
里緒菜とか愛美、とか。
ふんわりとしたお花畑の国は幸せで涙なんてないけれど、
きっとずっとちっとも成長することはない。
人間、中身を成長させるために恋をする。
よって、男と女がいるのだと壮大なことを結衣は思う。
頑張りたい。まだ終わっていないのだから。いや、まだ始まってさえいないのだから。
今からだと思い込めば簡単、最終的に言えば自分の気持ちの捉えようだ。
従って、初恋研修生の結衣は片思い組の前向き勘違い説に則り、
ホワイトデーから頑張ればいいだけだ。



