揺らぐ幻影


《いってきます》

送信したメールは春の手前の空気の中、電波を飛ばして寒い冬にさよならできるよう背中を押してくれる。


《頑張れ。大丈夫。絶対両思い笑》

《結衣なら大丈夫! でもキスさせるなよ笑》

大丈夫、笑える大丈夫をくれる友人に心から愛を込めて、電車を降りて踏み出した。



出かけに撫でたバレンタインのお花の仲間を眺めよう。

一ヶ月振りに見渡すのは、改札からバスターミナルへと向かう変わらない景色、

スロープの向こうには、時間待ちに持ってこいのコーヒーショップや、ファストフード店が並ぶ。


ホワイトデーなので紙袋を抱えた人がちらほら見られ、

すれ違い様にドキドキが増殖する。


一歩一歩進むと、これからゴール地点にたどり着くのではなく、

今から始発点に立つのだと不意に感じた。


結婚はゴールでなくスタートだとよく言うが、片思いも正にその通りだと思う。

未来はずっと繋がっていて、未来を組み立てるために今を頑張るのだろう。


  はあ、怖いな

  ドキドキ……なんか心臓痛いし

喫煙室の煙りもエスカレーターのボタンも、なにもかもあの時と同じ。

なぜか結衣の微笑みが絶えない。
エステの受付嬢のお姉さんくらい、素敵な笑顔をしている気がする。


前回と違うのは、友人に頼るのではなく きちんと自分の足で前を選んでいること。

こちらが告白をするのではなく、向こうから返事の告白をもらうこと。

外見に少し自信が、内面にかなり自信が持てるようになったこと。

好きがもっともっと増えたこと。


挙げだしたらきりがない。

煮物をする時にいつまでもアクをとり続けてしまうくらい、

お米を洗う時に濁りは澄まないものなのにいつまでも研いでしまうくらい、

何事にも限度や加減がある。

バレンタインの日と比べて違うことを、結衣がやめない限り永遠に述べられる。

それではきりがない。


なので、彼女はホワイトデーまでに成長した部分を羅列することを、

ようやくストップさせることにした。


だが、どうか最後に一つだけ。


それは――――