揺らぐ幻影


立ち尽くしたままリビングから空の色を眺めていると、いきなり膝裏に衝撃を受けた。


「っわ! な、お姉、ちゃん?」

二年振りに膝かっくんをされて床にへばり付いた結衣が見たのは、

細身の黒パンツを履いて、ぴたっとしたVネックのロンTに柄もののストールをセーラー服のリボンのように巻いたセンスの良い姉だった。

同じ親から生まれたはずが、彼女はカッコイイやクールといった単語が似合う。


キャリア女性に向けたオフィスで着られてシンプルだけれど、

アフターファイブでも使える遊び心あるセンスが良いブランドショップの店長が結衣の姉だ。


ちなみに不況な昨今、アフターファイブなんて死語かもしれない。せめてアフターエイトだ。

きっとOLさんイコールお昼休みにお財布持ってランチ〜、夜は商社マンと合コン〜、

趣味は加圧トレーニング〜、なんて正にステレオタイプ、

そんなのはまやかしで、働く女性はご立派なのだと、

姉や母親を見るうちに、結衣は思うようになった。


久々にくらった膝かっくんは衝撃大で、

妹は年下らしく「痛いよっ虐待反対!」と、ぷっくり膨らませたホッペで怒りを露わにした。


対照的に大人らしいゆとりある姉はサーモンピンクの春を先取りしたセクシーな唇で、

ゆっくりと妖艶に弧を描いた。


「今日ぽこりんに返事もらえるんだー、そーなんだー。一時にバスターミナルで告白の返事もらえるんだー。

振られるかなオッケーかなーどっちかなー、不安? 結衣はぽこりんの彼女になりたいんだー? へえーふぅぅぅん?」


唐突とは正にこのこと。
ありえないとは正にこのこと。

海外旅行のお土産で貰ったコスメ、成分が合わなくて肌が腫れてしまったくらい仰天だ。

パウンドケーキを焼いたのに、ベーキングパウダーを入れ忘れたくらい衝撃だ。

美容院で渡されたファッション雑誌三冊を早々に読み終わり、なぜか週刊誌を渡されたくらい予想外だ。


とにかく、今こんなにも晴れているこの青空。

エアーブラシでグラデーションにしたネイルのような綺麗なこの雲。

口笛を吹いた時に零れる息のように愉快なこの風。

キラキラした風景、今日こそがホワイトデー。


「なんで?!」