静香ちゃん。
こちらが嫉妬を燃やす相手が、素っ頓狂女なら良いのにと何度思っただろう。
結衣の悪口を言ったり、嫌がらせをしたり、友人にまで意地悪をしたり、近藤に体を売り込んだり、
そんなだったらマシだったのにと。
そうしたら、堂々と静香を嫌えるし静香を悪者にできるし、振られたら静香のせいにできる。
それでも彼の隣が似合う女性は、ちっとも結衣に負の感情を表さない。
そう、静香と結衣に接点はないにも関わらず、勝手に勘繰り彼女にヤキモキするのが最近の結衣だった。
情けないったらない。
百人居れば、百十人が駄目な奴だと罵るほど愚かだ。
自信がないせいで、近藤が誰か別の子に笑うだけで焦ってしまったのだと今なら分かる。
大丈夫がんばろ
近頃決まって彼と一緒にいる人の顔は打ち消し、
愛美の分も里緒菜の分も、市井の分も大塚の分も頑張りたいと結衣は決意した。
皆が応援してくれた事実への感謝を忘れ、切ないと涙する女にカリスマ性は感じない。
恋を知った結衣は可愛くなくて気味が悪いし欝陶しいし、我が儘だし泣き虫だし、執念深いし、
本当、人として難アリだ。
好きになってくれるのだろうかと不安だったり、脈があるのではと浮かれてみたり、
嫌われたと辛くなってみたり忙しい。
きもちわる
ううん、愛らしい
髪型を変えた、メイクを勉強した、香水、ネイル、ピアス、
馬鹿なりに外見は繕えた。
果たして、中身は成長したのだろうか。
一定のリズムで鳴る針が右に回る。
短針と長針が重なった瞬間、得をした気分になる不思議。
作戦をしながら、すれ違う時の――重なった瞬間で時間が止まればと願っていた。
どうか二人の気持ちがぴったりと繋がりますように。
乙女心に両手を添え、ウサギのお財布を見て深呼吸した。
ドラマチックな展開はいらない、ロマンチックな設定もいらない、ファンタジックな流麗もいらない。
ミラクルハッピーデステニーな主人公にならなくていい。
日常がいい、普通がいい、平凡がいい。
時給くらいの安い奇跡がどうかホワイトデーに舞い降りますように、と。
瞳の奥の世界は、やっぱりお花畑だった。
…‥



