近藤洋平の名前が皮膚の内側を駆け巡る。
《明日一時って大丈夫? バスターミナルによろしく。時間変更するなら合わせる》
……は、
メール
え。なに、嘘、会う、の?
……ホワイトデー
今更、? 明日
もう無視されるのだと。
もう流されるのだと。
不思議なメールに混乱して重力がなくなったのか、あるいは起きたまま幽体離脱をしているのか、
ふわふわと浮遊し始める諦めの悪い恋心に戸惑う。
《大丈夫。ありがと》
数分前の大丈夫は嫌いな言葉。
今の大丈夫は勇気付ける言葉。
だから片思いは難しい。
普通、主役に抜擢される女の子は清らかなハートの持ち主らしいが、
どうひいき目に見ても結衣は当て嵌まらない。
友人に八つ当たりをするし、女子に嫉妬をするし、情けないばかりだ。
携帯電話の待受画面は、片思い成就のプリクラ画像、
里緒菜、愛美、結衣の笑顔と、ぽこりんという落書き。
ぽこりん、変なあだ名
プリクラはなぜ正方形が増えたのだろう。
オシャレをしても服が写らないし、顔のアップだと落書きをするスペースが微妙に見当たらないし、
壁紙に設定したら上下に無駄な空間が出来るため、
以前のまま縦長タイプに戻ってほしいと強く不満だ。
それは遥か昔、ノストラダムスの予言とかコギャルとかキャミソールとか、
懐かしの単語が世間をにぎわしていた時代、プリクラは横向きだったのに、
数年後にいつの間にか縦向きに変化し、横長は消え去って縦プリが定着した時と同じ流れなのだろうか。
時代に逆らってみたい。
世の中の流れを叫び飛ばしてしまいたい。
例えば、近藤洋平の未来に田上結衣が居るように、過去をいじってみたくなる。
入学式に戻ってすぐにアドレスを――いや、服飾コースを選ぶには受験の時に戻るべきで、
いやいや、中学生に戻ってバレー部に入れば共通点が生まれるから、
むしろ小学生からやり直せば勉強をして頭が良くなるから――
どうして昔に戻りたくなるのか。
片思いを頑張っていた数週間前の彼女は明日また頑張ろうと、
未来ばかりを待ち遠しく思っていたのに、やっぱり恋愛は謎だ。



