揺らぐ幻影


名目上春休みになる最後の日、つまり昨日の放課後にでも呼び出され、

きっぱり振られると思っていた。


しかし何も近藤からはアクションがなく、あっさり補習休みになってしまった。



鳴らない携帯電話が厳しく教えてくれる。

土曜日にわざわざ呼び出される気配もないので、

そうなるとホワイトデーにメールで呆気なく簡単に振って下さるのだろう、と。


あるいはシカトか。

盛大なため息ばかりで鼻の穴が大きくなるかもしれない。


「辛気臭ーうざっ退けて」といった具合に、リビングを姉に追い出された結衣は、

スケールでかい孤独に耐え切れず、愛美と里緒菜にメールをした。

《ぽこりんからなんもない。明日メールでフラれるかな。告白自体マクられるかも》


不安だった。

明日はホワイトデーで、バレンタインに返事を頂戴と頼んだ日で、

三月十四日には、『はい』『いいえ』の解答が得られると疑いもしていなかったが、

それさえ危うい。
真剣な告白をなかったことにされてしまうのだろうか。


だとすれば、バレンタインは一体何だったのか。


社会人になれば、嫌な相手でも付き合いがあるため関わらないといけない。

たとえ結衣が苦手でも、大人術を身につける踏み台でいいから、ごめんなさいくらい言ってほしい。

流さないでほしい。
スルーしないでちゃんと意思表示をしてほしい。

振ってくれないと、恋心を返してくれないと、いつまでも好きなままで居てしまうじゃないか。


それって狡い。
卑怯だ。
曖昧は意地悪だ。


  はあ、

けれども大人、本音を隠し言葉を濁すことが時には当たり前だ。

我が強かったり自己主張が激しかったりするよりも、

交わして終わらせる美学、ことなかれ主義の必要性は知ってしまっている。


里緒菜からは、《大丈夫だって。結衣は可愛いよ》と、

愛美からは、《大丈夫! 待とう、結衣なら大丈夫》と、

二人のメールを読んだ後、結衣は下唇をおもいっきり噛んだ。


大丈夫と言う言葉は嫌いだ。

あまりに適当ではないか。
ざっくりと励ましているだけで人事でしかなく、

親身になんて考えてくれていやしないのがよく分かる。


なぜなら……