揺らぐ幻影

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この時期、街中には卒業桜ソングが溢れ出し、

出会いと別れに戸惑いながらも前向きな歌詞で勇気付けてくれるハッピーチューンが、

若者の心をがっちり掴む。


緑が芽生えて花も蕾を咲かせ麗らかな新生活、

そんな四月の春らしさを演出中のまだ寒い三月、体感温度はお日様のお陰で比較的過ごしやすい。


少し伸びた髪の毛を弄りながら、結衣はカレンダーをきつく睨んだ。

ただ、もしかすると、泣きっ面にしか見えないのかもしれない。


最低点は四十一点、それから四十七点や五十八点、六十点と平均的よりは下だが赤点は免れ、

最高得点は世界史の八十一点で、テスト週間も明けて答案用紙に三十点代がなく、

ギリギリ穏やかな春休みを迎えることができそうだ。


マドカ高校は、昨日から補習という名の春休みもどき、

終業式までは有志の人と赤点をとった人だけが午前授業に参加するだけで、

結衣のように赤点を免れた生徒の多くは通わない。


さあ、本日は十三日の金曜日、

リビングのソファーに寝転がり、背もたれに足を乗せたりして、

結衣がダラダラしていたところに、朝番の姉が紙袋を抱え帰宅したのは八時を回った頃、

白シャツを背景に大花柄のストールを首から垂らして細いベルトで腰に固定し、

半端丈のパンツを合わせた意識高いキャリア的な格好は彼女によく似合うと思う。


  私が着てもヘンテコ、


姉妹でありながら、あまりの美貌の差にため息を零す。

全部放棄してしまいたい。

嫌いになれたら楽なのに、近藤を嫌えない結衣は悩むことが恐らく趣味で、

苦しい切ない辛い、そんな気持ちに酔いしれたいから、

悲劇のヒロインになりたいから、見込みのない人にこうして恋をしているらしい。


こんな風に無理な恋を選ぶのは、

要するに胸が裂けるような歯痒い純愛をしている自分が好きだからでしかない。

報われない恋にしがみつくのは、泣きたいだけだ。

頑張っている結衣であるために、近藤を嫌いになれない可能性が高い。


  ……、

何か言いたそうな姉の視線が痛かった。

近藤からメールはない。
明日はホワイトデー、彼はどうするつもりなのだろうか。